第11話「国王陛下の五人の側室」
「そうまでして余はべナットを生かそうとした。
だが、ベナットは成長するに従って、怠惰な性格が表に出るようになってきた。
勉強も普通、剣術もそこそこ、王族にふさわしい器ではなかった。
それだけではなくべナットは、婚約者であるそなたを嫌い、ぞんざいに扱うようになった。
ベナットが王族として生きていられたのは、アリーゼとの婚約があったからだというのに……」
ここまで言って、陛下はふぅーと長く息を吐きました。
彼もこの説明をするのは辛いようです。
「べナットが傷つくと思って、あやつが成人するまで生い立ちを秘密にしていたが、それが仇となった。
そして決定的だったのが、卒業パーティーでの婚約破棄の一件だ。
ベナットはアリーゼに婚約破棄を突きつけ、そなたとは絶対結婚しないこと、ミュルべ男爵家のレニとの間にしか子を作らせないことを、皆の前で公言してしまった……。
国中の貴族の子息や令嬢が集まっている卒業パーティーでだ。
さすがに……此度ばかりは余もべナットを庇いきれなかった……」
陛下はそうおっしゃり、肩を落とし、苦しそうに目を伏せました。
陛下にとっても、卒業パーティーでべナット様が婚約破棄をしたのは予想外だったようです。
「陛下のせいだけではありません!
ベナットの精神的なダメージを考慮して、彼が成人するまで、真実を伝えるべきではないと進言したのは私です!」
王妃殿下が口を開きました。
彼女は悲痛そうな表情でそう言いました。
「このような事態を招いたのは、べナットとアリーゼの結婚を急ぐあまり、私がアリーゼに王子妃教育を詰め込んでしまったせいです!
そのせいでベナットはアリーゼと共に過ごす時間が取れなくなり、
レニというミュルべ男爵家の庶子に心を許してしまったのです!
全ては私のせいですわ!」
王妃殿下は苦しそうにおっしゃり、涙を零しました。
彼女が私とべナット様の結婚を急いだのも、私に王子妃教育を詰め込んだのも、べナット様の御身を守る為だったのですね。
王家の血を引かず、自分とは血の繋がっていないべナット様にここまで心を砕かれるなんて……王妃殿下は、慈悲深く愛情深い方のようです。
「王妃のせいではない。
そなたはベナットの地位を安定させようと、アリーゼとの婚姻を急いだまでのこと。
ベナットを実の息子のように可愛がり、育ててきてくれたそなたを、誰が責められようか?」
陛下は王妃殿下の肩に手を置き、彼女を慰めました。
国王陛下と王妃殿下は、べナット様を助けようと手を尽くしました。
しかし、彼らの思いやりの心はべナット様には届くことはありませんでした。
彼らの愛情を、べナット様は自ら踏みにじってしまったのです。
「今回のことで余はべナットは王族にふさわしくないと判断した。
なので、べナットから王子の地位を剥奪し、幽閉した。
べナットが王子でなくなった今、奴の母親の実家であるムーレ子爵家を残しておく意味もなくなった。
ムーレ子爵家も取り潰し、当主夫妻は処刑、子爵家の血縁者には幽閉処分した」
そう話す陛下のお顔は、かなり疲れているように見えました。
「本来ならば、これらの処分は十六年前に下すべきであった。
余の判断の甘さが此度の事件を招いてしまった招いてしまった。
アリーゼの五歳から十八歳までの十三年間を、無駄にしてしまった。
本当にすまなかった」
「ごめんなさいね、アリーゼ」
国王陛下と王妃殿下が揃って頭を下げました。
「国王陛下、並びに王妃殿下、どうか頭を上げてください。
上に立つものが軽々しく頭を下げるものではありません」
お二人に頭を下げられては、どうしていいかわからなくなってしまいます。
「そうかアリーゼ、許してくれるか」
「ありがとう、アリーゼ。あなたは優しい子ね」
彼らは頭を上げ、安堵したように目を細めました。
王族に謝られては、公爵令嬢に過ぎない私には、許す以外の選択肢はありません。
私はぎこちなく笑って返すことしか出来ませんでした。
公爵家に生まれた以上、私は家の駒にしか過ぎません。
ベナット様と婚約しなくても、どなたかと政略の為に婚約していたことでしょう。
彼との婚約を破棄され、私は傷物になりました。
べナット様の有責での婚約破棄とはいえ、経歴に傷がつくのは女性の方なのです。
それでも私はルミナリア公爵家の長女です。私の価値が完全になくなった訳ではありません。
公爵家と縁続きになりたくて、私と婚約したいという家はあるでしょう。
政略結婚の駒として、私はまだ実家の役に立ちそうです。
「王位は弟のラファエルに継がせる。
母は……亡き王太后はそのつもりで余に側室を五人も娶らせたのだからな……」
国王陛下は疲れきった様子でそう話しました。
王太后殿下は、一体どのようなお考えのもと、陛下に五人も側室を取らせたのでしょう?
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