第9話「国王夫妻からの謝罪」
「ルミナリア公爵、アリーゼ、この度はべナットが迷惑かけた」
「アリーゼ、ごめんなさいね。私があなたとべナットの結婚を急かせたばかりに……」
逆に陛下と王妃殿下から謝られてしまいました。
王妃殿下に至っては、瞳に涙を浮かべています。
まさか、国のトップに立つお二人から謝罪されるとは思わず、私は困惑を隠せませんでした。
隣に立っている父を見ると、彼は厳しい表情でお二人を見ていました。
これは私の推測ですが、父が陛下と王妃殿下が謝罪するのを見ても動揺していないのは、彼らが謝った理由を知っているからでしょう。
「突然のことで驚いただろう。まずはかけなさい」
陛下は落ち着いた声でそう言いました。
陛下のご厚意に甘え、長いテーブルを挟んで、彼らと対面の席に座りました。
「人払いはしてある。ここで話したことが外に漏れることはない」
陛下は憂いを含んだ表情でそうおっしゃいました。
「突然のことでアリーゼは困惑しているだろう。
順を追って話そう。
まず、そなたとべナットとの婚約は、べナットの有責で破棄された」
私とべナット殿下の婚約は、私が知らない間に破棄されていました。
隣に座る父を見ましたが、彼は無表情で陛下を見据えていました。
お父様のこの態度……彼は、私とべナット殿下の婚約が破棄されたことを知っていたのでしょうね。
「そなたには迷惑をかけたな。
ルミナリア公爵家には、王家から相応の慰謝料を払うつもりだ」
陛下は悲しげな表情でそうおっしゃいました。
べナット様との婚約が、彼の有責で破棄されるとは思ってもいませんでした。
「べナットの処分だが、王子の身分を剥奪し、北の塔へ幽閉した。
奴は、生涯外に出ることはない……」
陛下は、憂いを帯びた表情でそうおっしゃいました。
卒業パーティーでべナット殿下が……いえ、彼は王子ではないので「殿下」と呼ぶのはおかしいですね。
卒業パーティーで、べナット様が起こした婚約破棄騒動は、確かに非常識でした。
ですがまさか、べナット様が生涯幽閉されるとは想像もしていませんでした。
彼の王子という身分を考えると、せいぜい数カ月謹慎される程度だと思っていました。
「アリーゼの表情から察するに、余がベナットに下した処分は重すぎると思っているようだな?」
陛下には、私の心が読めるようです。
「べナット様は第一王子で、陛下のただお一人の御子息でした。
まさか彼が生涯幽閉されるとは夢にも思わず……」
ベナット様は怠けグセがあり、少々口の悪い方でした。
彼が、卒業パーティーという厳かな祝いの場で問題を起こしたのは、「自分は国王のただ一人の息子だから何をしても許される」……という奢りからだったのでしょう。
実際、陛下はベナット様には甘い方でした。
「まずはべナットの生い立ちから話そう。
ここにいる者は、そなたを覗いて皆、べナットの出自を知っている」
陛下はこの部屋に集まった全員の顔を見て、悲痛な面持ちでそうおっしゃいました。
王妃殿下とお父様は、暗い表情をしています。
ベナット様の生い立ちとはいったい?
「そなたは王妃が嫁いでから十年間、子供ができなかったことを知っているな?
その後、余が五人の側室を
陛下は私の目を見て、確認するかのように言いました。
「はい、陛下。存じております」
側室のお一人が、べナット様を出産したのですよね。
「余は五人の側室を娶った。
それは今は亡き母、王太后の意向であった」
陛下が側室を五人も娶られたのは、亡き王太后殿下のご意思だったのですね。
確か……王太后殿下は、べナット様が生まれる一年ほど前にご
「その中の一人、ムーレ子爵家のオクタヴィアがベナットを出産した。
彼女はベナットを出産するとすぐに亡くなった」
べナット様は、母親を早くに亡くされました。
陛下が彼に甘かったのは、そのことに関係してるのかもしれません。
「待望の男子の誕生に国中が湧いた。
跡継ぎが生まれ、他の側室がいる必要がなくなった。
なので、残り四人の側室は一年間離宮で暮らさせ、妊娠していないことを確かめた後、実家に帰した」
だから現在は、陛下の奥方は王妃殿下下お一人で、側室はお一人もおられないのですね。
「余もやっと息子を授かったことに喜びを隠せなかった。
王妃も、べナットを実の息子のように可愛がってくれた。
生まれたばかりのベナットは、琥珀色の髪に、茶色のを目をしていて、とても可愛らしい子だった」
陛下は目を細めそのように語りました。
べナット様の真紅の髪と瞳は、生まれつきでもなかったのですね。
彼が生まれたとき、茶色い髪と瞳をしていたのは知りませんでした。
赤子の頃のベナット様のことを語る陛下のお顔は、とても優しく父親としての愛情に満ちていました。
そこまで話すと、陛下は深く息を吐きました。
「ベナットが二歳になった頃……。
あやつの髪と瞳の色は、茶色から鮮やかな赤へと変わった」
陛下の瞳には、暗い影が差していました。
「余の親族にも、ムーレ子爵家にも、赤髪で赤い瞳のものはおらぬ」
それは一体……!?
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