第8話「父への報告。王宮からの呼び出し」



私は父の帰宅を待って、彼の執務室に向かいました。


父の部屋はこの家で一番広くて豪華です。


壁際には木製の本棚が置かれ、難しい本が並んでいます。


窓際には存在感のある年代物の机が配置されています。


父の部屋は整然と片付けられていて、インクの匂いがしました。


父は机とセットになっている背もたれのある椅子に座りました。


私は父と机越しに対面し、立ったまま話すことにしました。


私は父に人払いをお願いしました。メイドがお茶を出すと下がって行きました。


私はメイドが部屋を出たのを確認し、今日学園であったことを伝えました。


父はこの国の宰相です。


彼は銀色の髪を短く切り揃え、セルリアンブルーの切れ長の目をしています。


自分の父親をこのように言うのは何ですが、威厳のある整った凛々しい顔立ちで、大柄で筋肉質のがっしりとした体つきの人です。


父は私の話を聞き終えると眉根を寄せ、口の端を下げ、険しい顔をしました。


私は父に叱られることを覚悟していました。


「わしは王宮に戻る。今日は帰らないかもしれない」


父は登城の支度をし、家を出て行きました。


私は叱られることを覚悟していたので、特にお説教もなくすんだことにほっとしました。


それにしても、父はなんの為にお城に戻ったのでしょうか?



 ◇◇◇◇◇



それから一カ月、父は慌ただしく王宮と自宅を往復していました。


父は私を見ると「アリーゼは家でおとなしくしていなさい」と言うだけで、私を叱りはしませんでした。


私は父に言われた通り、自宅で本を読んだり、ガゼボでお茶をしたりしながら、ゆったりとした時間を過ごしていました。


べナット殿下との婚約がどうなるか分かりません。


彼との婚約が破棄されたとしても、今度は別の家に嫁がなくてはいけません。


そうなったらまた忙しくなります。


三年分の休暇が取れたと思って、この期間にゆったりと羽を伸ばすことにしました。


時間があったので、ヘアトリートメントやパックにも力を入れました。


おかげで髪は艶々、肌はすべすべです。


殿下との婚約が破棄され、別の方とお見合いが持ち込まれても、いつでもお相手の方に会いにいけます。


そんな私ののんびりとした生活とは逆に、王宮では大変なことが起きていたようです。


私がそのことを知ったのは、卒業パーティーから一カ月後、父と一緒に王宮に呼ばれた時でした。




 ◇◇◇◇◇




一カ月後、王宮から呼び出しを受け私は、父とともに登城することになりました。


三年間、毎日通った王宮ですが、一カ月振りに登城すると少し緊張します。


父は藍色のジュストコールを、私はロイヤルパープルのドレスを纏い馬車に乗りました。


父は何か大きな出来事がある時は、藍色の服を身に着けて出かけます。


藍色は亡き母の瞳の色です。父は今でも母の事を大切に思っているようです。


父がその色の服を纏っているということは、今日の登城にはきっと特別な意味があるのでしょう。


もしかしたら殿下との婚約破棄について、陛下からお叱りを受けるのかもしれません。


陛下はべナット殿下に甘いですから。


そうなるとやはり、殿下との婚約は継続されるのでしょうか?


私との間に子供を作りたくないといい、ミュルべ男爵令嬢を溺愛するべナット殿下と結婚……。


政略結婚とはいえ、べナット殿下とはなるべく円満な関係を築き、お互いに支え合っていきたかったのですが……。


彼が他の女性に夢中では、それはちょっと難しいかもしれませんね。


べナット殿下とミュルべ男爵令嬢に嫌味を言われ、二人の尻拭いをするだけの結婚生活を送ることになるのですね……。


気が重いです。陛下のお話しを伺いたくありません。


とはいえ、公爵令嬢に過ぎない私には、陛下の決定を覆す力がありません。


陛下が、私とべナット殿下との結婚を望まれるのなら、それを受けるしかないのですよね。


べナット殿下との結婚式は半年後を予定しています。


すでに各国の要人に招待状も送ってしまいました。


今更、彼と婚約破棄するのは難しいですよね……。


馬車の窓から見える王宮を眺め、私は深く息を吐きました。


◇◇◇◇◇


私達が王宮に着くと、城仕えの侍従長が出迎えてくれました。


侍従長に案内され会議室に向かいました。


侍従長が会議室の扉を開けると、濃い緑のカーテンとエメラルドグリーンの絨毯が目に入りました。


部屋の中央に木製の長いテーブルが配置されており、窓際の席に陛下と王妃様がかけておられました。


国王陛下はややくせ毛がかった銀色の髪を肩まで伸ばしていて、ラベンダー色薄い紫の優しげな瞳をしていました。


彼は翡翠色の軍服に、同色のマントを羽織っていました。


王妃殿下は金色のウェーブのかかった髪を、アップスタイルにしています。


彼女はややつり目がちな金色の目をした美人です。


年齢は四八歳ですが、今も衰えない美貌を保っていて、三十代後半ぐらいにしか見えません。


王妃殿下は、上品なデザインの漆黒のドレスを纏っていました。


彼女は黒が好きなのか、いつも黒色のドレスを着ています。


お二人の顔はどことなくやつれていて、悲しげな表情をしていました。


お二人に何かあったのでしょうか?


私は、べナット殿下との婚約破棄を勝手に了承したことについて、お二人に謝罪しようとしました。


ですが……。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



読んで下さりありがとうございます。

もしよければ★から評価してもらえると嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る