第5話「お前とは絶対に結婚しない!」



担当の教師の方も、倍速で授業を進めなくてはならず、そのような世間話をする余裕もありませんでした。


「先ほどから何の申し上げておりますが、私はこの三年間、王妃殿下の命令で王子妃教育を最優先しておりました」


色々なことを犠牲にしておりました。


「なのでこの三年間、べナット殿下とのお茶会もありませんでした。

 王室主催のパーティーにも出席しませんでした」


第一王子の結婚者でありながら王室主催のパーティーに参加しないのは、本来なら不敬にあたります。


ですが私は、王妃殿下から「そのようなパーティーにも参加しなくても良い」とパーティーに参加しなくてもいい許可を頂いておりました。


王妃殿下からは「何よりも王子妃教育を優先するように」、強く言われていました。


「べナット殿下をお見かけするのは入学式以来です。

 私には、あなたとミュルべ男爵令嬢が一緒にいるところを、見る機会など今日までありません。

 誰も私にお二人が付き合ってることを報告に来ませんでした。

 べナット殿下、ご自身から聞くこともありませんでした。

 なので、べナット殿下に他に愛する人ができたことを、私が知るすべなどなかったのです」


ようやく王子妃教育も終わり、卒業パーティーをゆっくり楽しめると思ったのに……。


まさか、このような騒動に巻き込まれるとは……。


「それから、私とべナット殿下の婚約は政略的に結ばれたものです。

 私はべナット殿下を愛しておりません。

 なので、べナット殿下に他に愛する人ができたとしても、私が嫉妬する理由がありません。

 べナット殿下がミュルべ男爵令嬢を愛してると言うならば、私との結婚後、彼女を愛人にすれば良いだけの話です」


私と殿下の婚約は五歳の時に結ばれました。


そこに私の意思など介入する余地などありませんでした。


彼は初対面の時から私を嫌っていました。


私も彼とはお話が合わないと思っていました。


彼に恋心を頂いたことなど一度もありません。


なので、私がミュルべ男爵令嬢に嫉妬する理由が一ミリもないのです。


「べナット様を三年間もほっといたなんて酷い!」


ミュルべ男爵令嬢がそう言って私を睨みました。 


今の話を聞いていて、どうしてそういう結論にたどり着くのでしょう?


むしろ三年間、私が血が滲むような努力をしている間に、浮気をし、冤罪をかけ、公衆の面前で私を断罪してくるベナット殿下の方が酷いと思いますが。


「それに、私にベナット様の愛人になれっていうんですか!?

 なんでそんな冷たいことが言えるんですか!?

 私は愛する人と結婚したいだけです!

 彼の唯一無二の人になりたいんです!

 あなたがべナット様と結婚した後に、愛人になるなんて嫌よ!!」


ミュルべ男爵令嬢は、目を大きく見開き涙ぐんでいました。


私は彼女にそんなに酷いこと言ったでしょうか?


愛人になることを認めているだけ、寛大だと思うのですが?


「レニ、落ち着いて!

 君を愛人になんかしないよ!

 アリーゼとは婚約破棄する!

 君を必ず正室にしてみせる!」


ベナット殿下がミュルべ男爵令嬢を慰めています。


「嬉しいわ!

 ベナット様!」


二人は見つめ合い、抱擁を交わしました。


彼らのイチャイチャはいつまで見られるのでしょうか?


婚約は家と家との取り決めなので、婚約破棄したいのなら、私にではなく、国王陛下や王妃殿下、私の父である公爵に言って欲しいです。


結局、べナット殿下は公衆の面前で婚約破棄を突きつけることで、私に恥をかかせたいだけなんですね。


「アリーゼ!

 お前は本当に血の涙もない女だ!

 俺は初めて会った時からお前のことが嫌いだった!

 父親がルミナリア公爵家の当主で、母親がベルモント侯爵家の出身だからってふんぞり返りやがって!

 お前は俺の母親が子爵家出身で、側室だったことをいつも馬鹿にしていた!

 いつも蔑んだ目で俺を見ていた!

 俺は昔からお前が大嫌いだった!

 絶対にお前だけとは結婚したくないと思っていた!!」


私はべナット殿下のことも、彼の母親のことも馬鹿にしたことは一度もありません。


彼はそのように被害者意識を抱いていたのですね。


ベナット殿下が、初対面の時から私に冷たかった理由がようやく分かりました。


「アリーゼ、お前と絶対に婚約破棄してやる!

 お前と結婚して、お前との間に子供を作るならなんて考えただけでゾッとする!

 お前と婚約破棄した後、俺は愛するレミと結婚する!

 彼女との間にだけ子供を作るんだ!!」


殿下がそうおっしゃった瞬間、一瞬でしたが会場内にピリッとした空気が流れました。


どなたかが彼に向けて殺気を放った気がします。


これだけ大勢人がいると、どなたがそのような気を放ったのか分かりません。


「嬉しいわ! べナット様!

 私あなたの子なら何人でも産むわ!」


ベナット殿下とミュルべ男爵令嬢は、手を取り合い見つめ合っていました。


このやり取りはいつまで続くのでしょうか?


「そのためには、この場でお前の悪事を暴く必要がある!!」

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