第4話「アリーゼが一人クラスの理由」



「そうかやはりな!

 お前は公爵家に生まれたというだけで俺の婚約者になった!

 だがあまりにもバカすぎて使い物にならなかった!

 継母上様ままははうえさまは、そんなお前をかわいそうに思い、学園に裏口入学させたんだ!

 継母上様ままははうえさまは、普通のクラスの授業についていけないお前のために、一人だけのクラスを特別に用意し、授業を受けさせていたのだろう!」


殿下は口の端を歪め、勝ち誇った顔でそう言いました。


私の成績は学園に確認すればすぐに分かります。


彼は私をバカと決めつけたままでいたようです。


「私が一人クラスなのは、他の授業のクラスの授業では退屈で物足りないからです。

 一般のクラスの授業では、進むのがあまりにも遅すぎるのです」


私が一人クラスで特別授業を受けているのは、他のクラスの授業のレベルが低いからです。


「私が入学する直前のこと。

 学園を卒業後、期間を空けずにべナット殿下と結婚することが決まりました。

 そのために、学園を卒業するまでの三年間に、王子妃教育がギチギチに詰め込まれたのです」


通常なら学園生活を優先します。


学園は小さな社交場。


勉学だけでなく、有力な貴族や、優秀な人物と縁を作っておくことも必要だからです。


なので本格的な王子妃教育は、学園を卒業した後に行われます。


ですがそれだと、べナット殿下と結婚するのが遅くなってしまいます。


「三年の間に王子妃教育を終えるためには、普通に授業を受けて、放課後を王子妃教育に当てるだけでは時間が足りませんでした。

 なので急遽私のために特別クラスが用意されました。

 私は特別クラスで、普通クラスの倍速で授業を受けていたのです。

 私は午前中に授業を終え、午後は王宮で王妃教育を受けておりました」


この三年間、殿下とのお茶会も、王室主催のパーティーも、家族の誕生日パーティーさえも、私は全て参加しませんでした。


私の三年間は、学園の授業と、王子妃教育にあてがわれたのです。


それもこれも全て王妃殿下が、私とベネット殿下との結婚を急かしたからなのです。


三年間、私は誰よりも努力をしてきました。


その私が、まさか男爵令嬢に「努力が足りない」と言われるとは思いませんでした。


「くっ……!

 お前の言ったことが全て事実だったとして、お前が一人クラスであったことに変わりはない! 

 『トイレに行く』とか、『保健室に行く』とか、なにか理由をつけて教室を出ることは可能だったはずだ!

 そうやって自分のクラスを抜け出したお前が、体育の授業で誰もいなくなっていたレニのクラスに行き、彼女の教科書やノートを破った疑いは消えない!」


べナット殿下は鋭い眼光で私を睨めつけると、そうおっしゃいました。


「そうです!

 私のことを虐めた事実を認め、責任を取ってください!」


ミュルべ男爵令嬢が瞳をうるうるさせ、泣きそうな表情でそう言いました。


彼女の瞳は潤んでいましたが、口元は歪み、口角は上がっていました。


どうやらミュルべ男爵令嬢は、どうあっても私を虐めっ子に仕立て上げたいようです。


男爵令嬢に過ぎない彼女が、私に冤罪をかけて何のメリットがあるのでしょうか?


彼女が言ったことが嘘だと証明されたら、ルミナリア公爵家から多額の慰謝料を請求されます。


おそらく男爵家の土地は建物を全て売り払っても、当家への賠償金は払いきれないでしょう。


そうなれば彼女は家族と共に路頭に迷うことになります。

 

ミュルべ男爵令嬢にはその覚悟があるのでしょうか?


私には彼女の考えてることがさっぱり分かりません。


「べナット殿下のおっしゃるように、私は一人クラスでした。

 ですが、私が授業を抜け出して男爵令嬢の教室に行き、教科書やノートや制服を破ることは不可能なのです」


私は大きく息を吐きました。


理解力の足りない方と話をするのは疲れます。


「そもそも私は、ミュルべ男爵令嬢と会うのは今日が初めてです。

 彼女の名前も先ほど初めて知りました。

 なので彼女のクラスも当然知りません。

 なのにどうして私が彼女のクラスに行き、教科書はノートや制服を破ることができるのでしょう?」


公爵家の令嬢である私と、男爵家の令嬢である彼女には、ほぼ接点がありません。


「アリーゼ、嘘をつくな!

 俺がレニを愛してるのはこの学園に通うものの大半は知っている!

 俺の婚約者であるお前が知らないはずがないだろ!

 お前は、俺がレニと仲良くしてることに嫉妬して、彼女をい虐めたんだ!」


殿下は額に青筋を立て、唾を飛ばしながらそうおっしゃいました。


私がミュルべ男爵令嬢に嫉妬? ありえませんね。


「私は学園と王宮を忙しく行き来しておりました。

 担当の教師以外の方と、話す時間もありませんでした。

 それに私は一人クラスでした。

 べナット殿下が誰と浮気していたとしても、一人クラスの私の元にはそのような情報は入ってきません





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