第3話「身に覚えがありません」


べナット殿下に言われたことは、私には身に覚えがありませんでした。


「アリーゼ様、白状してください!

 おバカだから裏口入学しかできなくて、普通のクラスの授業にはついていけないから、一人クラスで特別授業を受けてたんですよね?

 私が可愛くて、賢くて、べナット様の寵愛を受けているからって、私に意地悪するのは酷いです!

 べナット様から愛情が受けられないなら、あなたも努力すべきです!」


ミュルべ男爵令嬢が手を顎に当て、眉毛を下げ、悲痛そうな面持ちでそう言いました。


私にはぶりっ子にしか見えないのですが、男性はあのような仕草に好感を持つのでしょうか?


それにしても、べナット殿下もミュルべ男爵令嬢も私のことを誤解しているようです。


お二人にどうして説明したらいいでしょう……?


私は深く息を吐きました。


私はミュルべ男爵令嬢に名前で呼ぶことを許可しておりません。


身分が上の者の名前を、許可を取らずに呼ぶなど失礼です。


ミュルべ男爵家では、彼女に礼儀を教えなかったのでしょうか?


それはそれとして、このような公共の場で濡れ衣を着せられたのです。


きちんと言い返さねば、ルミナリア公爵家のメンツに関わります。


「べナット殿下、発言してもよろしいでしょうか?」


さあ反撃開始です!


「お前が謝罪するというのなら、聞いてやろう」


殿下は汚いものを見るような目で私を見下しながら、そうおっしゃいました。


私からお二人に謝罪することは一つもありません。


ですが、べナット殿下から発言する許可をいただきました。


これから冤罪を晴らしていきます!


「ではお言葉に甘えて発言させていただきます。

 先ほど、ミュルべ男爵令嬢がおっしゃったことにはいくつかの誤りがあります」


私は、ミュルべ男爵令嬢を真っ直ぐに見つめました。


「アリーゼ様が睨んできます!

怖〜〜い!」


男爵令嬢が怯えた表情をしていますが、きっとそれも演技でしょう。


私は彼女を無視して話を進めることにしました。


「まず、私は裏口入学などしておりません。

 この学園には首席で入学しました。 そして今日、首席で卒業しました」


私はべナット殿下と男爵令嬢の目をしっかりと見据え、そう告げました。


べナット殿下とミュルべ男爵令嬢は、目を大きく広げ、口をポカンと開けていました。


「いやいや、お前が首席だなんてありえないだろ!

 入学式で新入生代表の挨拶もしなかったし、

 今日だって答辞を読まなかったじゃないか!」


べナット殿下は私を睨みつけると、厳しい口調でそうおっしゃいました。


「べナット殿下が何とおっしゃろうと、私が首席で入学し、首席で卒業した事実は変わりません。

 学園に確認すれば、すぐにわかることです」


私は会場の隅にいる教師に目を向けました。


彼らは面倒ごとにかかるのが嫌なのか、私と目が合うとすぐに顔を逸らしました。


相手は王族とはいえ、これは学園主催の卒業パーティー。


教育者として、規律を乱す生徒のことは、きちんと取り締まって欲しいものですわ。


「お前が首席だと? 笑わせるな!

 新入生代表の挨拶もしなければ、答辞も読まなかったくせに。

 すぐにバレるような嘘はつくな!」


べナット殿下は、眉をひそめ、口の端を歪めました。


どうやら彼は、私が首席になれるはずがないと、決めつけているようです。


「私が新入生代表の挨拶をせず、答辞を読まなかったのは、王妃殿下から止められたからです」


継母上様ままははうえさまから!?」


私が王妃殿下の名前を出すと、べナット殿下は真っ青に変わりました。


彼の額には汗が浮かんでいます。


「はい、王妃殿下がおっしゃったのです。

『第一王子の婚約者に過ぎないあなたが、彼より目立つのは良くないわ』と。

 王妃殿下に新入生の代表の挨拶も、答辞も断るように言われたので、私はその役割を他の生徒にお譲りしたのです」


新入生代表の挨拶と答辞をお断りした理由は、それだけではないのですが。


「それから先ほどミュルべ男爵令嬢は、私が裏口入学するほどのバカだから、どのクラスにも入れず、一人クラスで授業を受けている……とおっしゃいましたね?

 それも事実とは異なります」


私はミュルべ男爵令嬢に視線を向けました。


「アリーゼ様、言い訳するなんて見苦しいですよ!

 バカじゃなかったら、なんで一人クラスなんかにいるんですか!

 他のクラスの授業についていけないから、特別授業を受けてたんでしょう?

 いい加減に己の無能さを認めてください!」


彼女は厳しい表情で私を見つめ、そう言いました。


「そうだ!

 お前なんかが、首席になれるわけがないんだ!」


べナット殿下がそう言って私を非難しました。


どうやら彼らは、私が優秀であることを認めたくないようです。


「私が一人クラスになったのも、王妃殿下のはからいです」


一つずつ説明していくので、話の腰を折らないでいただきたいです。


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