第2話「公爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄される」



「アリーゼ・ルミナリア公爵令嬢! お前との婚約を破棄する!」


卒業パーティーの華やかな雰囲気を壊すような、不機嫌そうな声が会場に響きました。


私は名前を呼ばれたので、声のした方向を見ました。


壇上の上に一組の男女が立っていました。


男性の方には見覚えがあります。


赤い髪に真紅の瞳、まぁまぁ整った容姿。


誰よりも上等な漆黒のジュストコールを纏い、私を蔑むような瞳で見てくる方。


壇上にいたのは第一王子のべナット・グレイシア殿下でした。


彼は私の婚約者です。


べナット殿下の隣には、見慣れない女子生徒が立っていました。


琥珀色の髪を肩ぐらいまで切りそろえた少女は、漆黒の大きな瞳を潤ませていました。


少女の顔立ちは大変可愛らしく、体系は小柄で華奢。


彼女は露出度の高い真っ赤なドレスを纏っていました。


少女は殿下の腕に自分の腕を回し、彼の恋人か婚約者のように振る舞っています。


私は銀色のロングヘアで、セルリアンブルーの瞳をしています。


背は平均より少し高めです。


そのため周囲にクールな印象を与えてしまいます。


今、べナット殿下の隣にいる少女は、私とは正反対なタイプです。


「アリーゼ・ルミナリア! 聞こえないのか!」


私と殿下の間にいた生徒たちは、いつの間にか会場の端に移動していました。


再び殿下に名前を呼ばれたので、私は壇上の前に進み出て、制服のスカートの裾を掴みカーテシーをしました。


「ここにおります。べナット殿下」


他の生徒達は、華やかなドレスやジュストコールを纏って卒業パーティーに参加しています。


そんな中、制服を着ている私はかなり浮いていました。


私が今日制服を着ている理由は二つ。


一つ目の理由は、べナット殿下からドレスが贈られてこなかったから。


通常、誕生日やパーティーなどに参加する際は、婚約者からドレスが贈られてきます。


私が学園に入学してから三年間。べナット殿下からドレスが贈られてきたことは、一度もありません。


私はこの三年間多忙だった為、陛下の誕生パーティーや、建国記念のパーティーにすら参加できない状態でした。


なのでそれらのパーティーが催された歳に、べナット殿下からドレスが贈られてこなかったのは仕方がないことだと思っています。


ですが、卒業パーティーで着るドレスくらいは送ってほしかったです。


二つ目の理由は、忙しくて自分でドレスを仕立てる時間がなかったからです。


婚約者からドレスが贈られて来なくても、自分でドレスを仕立てることも出来ます。


しかし、私にはそのような時間もなかったのです。


卒業パーティーには、華やかなドレスを着て参加するのが慣例ですが、制服で参加しては行けないという決まりはありません。


なので、私は制服で参加することにしました。


「アリーゼ! 呼ばれたらさっさと返事をしないか!」


べナット殿下は私を指差し、声を荒げました。


「申し訳ございません」


べナット殿下は私より身分が上。


彼に何を言われても、私には謝ることしかできません。


「お前、俺に婚約破棄をされた理由はわかっているな!?」


べナット殿下は厳しい口調で、やや早口でそうおっしゃいました。


「申し訳ございません、べナット殿下。私には身に覚えがございません」


彼に婚約破棄される理由が思い当たりませんでした。


強いて理由を上げれば、忙しすぎてべナット殿下とお茶会をする余裕もなかったことでしょうか。


ですがそれは、ある方の許可を取ってのこと……。


「嘘をつくな! 

 アリーゼ、お前には身に覚えがあるはずだ!! 

 お前は俺の愛するレニ・ミュルべ男爵令嬢を虐めていたのだからな!」


彼の隣りにいる茶髪の少女の名前は「レニ・ミュルべ男爵令嬢」というのですね。


ベネット殿下が彼女の名前を呼んだとき、私は初めて彼女の名前を知りました。


少女の顔に見覚えがなかったので、下位貴族ではないかと予想していました。


高位貴族の令嬢なら、学園に入る前に開かれたお茶会で、一度や二度、顔を合わせたことがあるはずですから。


レニ・ミュルべ男爵令嬢と呼ばれた少女には、全く見覚えがなかったので、高位貴族のパーティーには呼ばれない、低い身分の方だと推測していました。


「べナット様! 私、アリーゼ様に虐められて怖かったです!」


ミュルべ男爵令嬢は、手を目に当てすすり泣くような音を出しました。


彼女の口元が歪んでいるのが下からだとよく見えるので、おそらく彼女は泣くふりをしているのでしょう。


男爵令嬢の隣に立つべナット殿下からは、彼女の口元が歪んでいるのは見えないようです。


「レニ、怖かっただろ? 俺がついてるから大丈夫だ!」


べナット殿下は、ミュルべ男爵令嬢の頭をなで彼女を慰めていました。


「アリーゼ、よくもレニを泣かせたな!

 レニを虐めたことを覚えてないと言うなら、俺が思い出させてやる!」


べナット殿下はそう言って私を、睨みつけました。


「お前は、自分が一人クラスなのをいいことに、

 レニのクラスが体育の授業で誰もいなくなった隙を狙い、

 彼女の教科書やノートを破り、

 彼女の制服を切り裂いた!

 どうだ! 己の非道な行いを思い出したか!」


べナット殿下は私を指さし、そう言いました。


彼の眉は釣り上がり、彼の眉間には皺が寄っていました。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



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