第3話①

その放課後、私は彼女たちに連れられて、彼女と健吾の告白現場を見守ることにした。健吾はまだ来ていなく、彼女はとても緊張しているようだった。やはり、告白だと分かっているのだろう。返事はどうするのだろうか。彼女が健吾の告白をオッケーしたのを咲人が知ったら、、、。悲しむに決まっている。けれど、それはしょうがない。決めるのは、彼女なのだから。まぁ、この場に咲人がいないのが不幸中の幸いである。、、、この場に咲人がいれば、咲人は彼女を諦められるだろうか。そうしたら、私のほうを向いてくれる?そう、願ってしまう私は、ひどい人間だろうか。どれだけ私が自分を磨いても、どれだけ咲人の力になろうとも、咲人は一向に私のほうを見てくれないのだ。咲人にとって、私はただの幼馴染なのだろう。惨め。そう、私が惨め。私があなたのために捧げていたことが、無駄だったということを見せつけられているみたいで、胸がぎゅっと苦しくなる。自然に胸を手で押さえていた私は、とりあえず深呼吸をしようと思った。すぅ、と新鮮な空気を吸うと、まるで身体の隅々までが浄化されるようで、心地よかった。このまま、全て清くなれば良いのに。


僕は健吾たちに連れられて、今裏庭に着いたところだ。自分を含めた応援に来た男子はおよそ四人。彼女にバレないように、僕たちはひっそりと建物の影に身を隠した。緊張しているのだろうか。健吾が大きく深呼吸をしている。そりゃあ、緊張するだろう。好きな子に告白するのだから。羨ましいな。好きな子に好きだと伝えられること。僕にはできない。なぜなら、勇気がないからだ。それだけではない。彼女の隣に立つことに、大きな不安を感じるからだ。そのくせ、健吾は彼女に見合うくらいのハイスペック男子である。彼女の隣に似合うのは僕じゃない。健吾みたいに、なんでも持ち合わせた人が、彼女に似合うのだろう。なんとなく、もう失恋したかのような感覚に陥った。思わず、下を向きかけたその時、一緒に来ていた一人の男子が僕の肩を軽く叩いた。

「いよいよだぜ」

「あ、ありがとう。教えてくれて」

「おう」

その子の言う通り、健吾が告白の言葉を口にしかけていた。

「あ、綾佳さんっ!俺は、ずっと前から綾佳さんのことが、す、好きです!良ければ、俺と付き合ってもらえませんか!」

みんなが二人を守る中、健吾は震える声で、けれど彼女のことが好きだという強い気持ちを表す声を上げ、手を彼女に差し出していた。その気持ちに、彼女の答えは、、、。

「あ、あの、そ、その、は、はいっ。よろしくお願いしますっ!」

彼女が告白をオッケーした瞬間、その場が一気に華やかになった。みんなが喜んでいるのだ。どこからともなく、おめでとう、という言葉が飛び交う。みんなの反応に、健吾と彼女は頬を赤くしている。可愛らしい反応である。一方で僕はというと。おめでとう、と素直に言うことができなかった。言える自信があった。あった、気がする。僕は、なぜ素直におめでとうが言えない?ここは、素直に喜ぶべきである。最初から分かっていたではないか。彼女に恋しても、それは叶わない恋だって。健吾が彼女に似合うんだって、さっきまで分かっていたではないか。分かっていたはずだったではないか。なぜ、おめでとうが言えない?嫌だ。嫌だ嫌だ。そんな自分が嫌で、僕は盛り上がっているこの場から、気づかれないように逃げようとする。別にバレないだろう。自分に誰かの視線がないのを確認してから、急ぎ足でこの場を後にする。その途中で見た彼女の顔は、今までで一番可愛らしかった。しかし、この笑顔は、僕に向けられたものではなく、健吾に向けられたもの。自分ではない。自然と僕は彼女たちから顔を逸らした。逃げよう。早く。そんな僕の腕を、誰かが掴んだ。

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