第2話

「雪華さん、私たちと一緒にお昼ご飯良いかしら?」

昼休みになり、私は彼女に一緒にお昼を食べようと声をかけられた。いつもは咲人と食べているのだが、なぜに今日は提案させた。けれど、誘ってくれたことはとても嬉しいので、その誘いに乗ることに。

「良いの?嬉しい」

「うん!良いよ」

「雪華ちゃん、この席使って良いよ〜」

彼女組の二人も快く応じてくれ、雪華分の席を用意してくれた。なんて優しい子たちなのだろう」

「三人ともありがとう」

「どういたしまして」

にこにことする三人。裏になんかありそうだが、それには突っ込まずに、椅子に座った。私の前には彼女がいる。これは、チャンスなのでは?余計なお世話かもしれないが、咲人を彼女に売ることができる。いや、でもどうやってその話に持ち込もうか。いやいや、その前に。

「ごめん、私、咲人にみんなとお昼食べてくるって言ってくるね」

すっかり忘れていた。咲人に伝えなければ、一人でご飯を食べることになる。

「行ってらっしゃ〜い」

この私の申し出にも、三人は快く応じてくれる。普通なのかもしれないが、本当に優しいと感じる。私は、ありがとう、と言ってカバンから弁当を取り出そうとしている咲人の元へ向かった。

「咲人、私他の子とお昼食べることになったから、今日一緒に食べれない。ごめんね」

「そうなんだ、分かった。じゃあ、誰か誘って食べるよ」

「うん、ありがとう。そうして」

咲人は誰と食べるのだろう。いつも私と食べていたから、大丈夫だろうか。

(って、私過保護すぎるって)

全く困ったものだ。私は、、、。

(いや、だめだめ)

咲人のことを、話に持ち込むのはやめよう。咲人はきっと自分でなんとかしたいはず。これは私のおせっかいにすぎないのだ。

「お待たせ〜。あれ、待っててくれたの?」

「そうだよ〜。みんなで食べ始めちゃってたら、雪華ちゃんが一人になっちゃうでしょ?」

「なんて優しいの、、、。ありがとう〜」

思わず心の声が出てしまった私。けれど、三人はあははと笑って、良いんだよ、と言ってくれる。まじで良い子たちすぎる。それから、いただきます、と言って一緒に食べ始めた。すると、すぐに彼女がきらきらとさせた目で、私のほうを見てきた。よく見ると、他の二人も、だ。

「ん、どうしたの?」

自然と進んでいた箸が止まる。私の疑問の声に、三人は何やら意味ありげな顔をした。そして、私の思いもよらぬことを口にする。

「雪華さんって、もしかして、倉橋さんのことがお好きなの?」

ひそひそとだけれど、上品な言葉遣いで彼女は私に問うた。突然のことで、すっとんきょうな声をあげてしまう。ちなみに、倉橋とは、咲人の名字である。

「えぇっ!?」

なぜそれを。誰にもバレていないと思っていたのに。

「雪華ちゃん、いつも一緒にいるでしょ?しかも、いつも楽しそうだし」

「うっ」

「お昼も行き帰りも一緒なのでしょう?」

「あ、いやそれは、昔からの幼馴染だからで、、、」

「でも、他の男子たちと話すよりも楽しそうじゃない?というか、あまり他の男子たちとお話しないように見えるよ?」

「うぅっ」

きらきらとした目で三人は私を見つめる。私の告白をどうやら待っているように感じる。やはり、女子の目は騙せないようだ。ここまできて、いえ何もないです、は言えない。とはいえ、告白するのにも抵抗感はある。そしてなによりも、だ。彼女は咲人が好きな子なのだ。私が告白をしてしまえば、彼女は気を遣って咲人と話をしなくなってしまうだろう。それだけは避けたい。ならばこの手だ。

「う〜ん、幼馴染として、す、好き?だよ。いつも一緒なのは、安心できるから、かな?幼稚園の時から一緒なの。物理選択も一緒だしね」

さぁ、これで納得してくれるだろうか。良い子たちだから、納得してくれるはず。

「そうなんだね。確かに、ずっと一緒の幼馴染って、安心できるよね。誰よりも自分のことを知っている、みたいな。私も幼馴染がいるから、同じ感覚なのかも。気づけば一緒にいるって感じだよね」

「そうそう!そんな感じ」

良かった。とりあえず、誤解は解けたみたいだ。、、、本当は誤解なんかではない。真実だ。幼馴染は誰よりも自分のことを知っている。確かに、咲人は私のことをよく知っていると思う。表面上は。私の心の奥底は、誰も知らないのだ。

「そっかそっか〜。私にもそんな幼馴染が欲しい〜」

「ふふっ、私も。雪華さん、私たち憶測で言ってごめんなさい」

「ううん、全然大丈夫だよ〜」

私はオッケーマークをしてみせる。三人はほっとしたのか、今度は違う話へと飛んだ。

「ねね、綾佳、今日健吾くんに告白されるんでしょ?」

綾佳とは、彼女の名前である。名前からして可愛らしい。というか、告白されるなんて初耳である。健吾くん、とは、クラスのリーダー的な存在である。リーダーに抜擢されるほど、彼も才色兼備なのだ。もし、彼の告白が成功すれば、神カップルの誕生だろう。咲人には申し訳ないが、彼女は絶対に彼とのほうがお似合いである。

(だから、私にすれば良いのに)

いや、これはただの私の欲求か。

「絶対お似合いじゃん!綾佳、返事はもう決めたの?」

まだ告白されていないのに、返事はもう決めるようだ。すると。

「ち、違うよっ。私はただ、今日の放課後、裏庭の大きな木の下で待ってるから来て、って言われただけよっ」

珍しく言葉遣いを砕けて言う彼女。お嬢様のような彼女でも、普通に砕けて言うらしい。けれど、砕けても上品だ。多分、他の二人が何も不思議そうにしないのは、彼女が普段からそうだからなのだろう。仲良くて良いなあと思う。

「ふふん、綾佳、それを告白するって言うんだよっ〜」

「そうそう。絶対告白だって」

私もその会話に交わらせてもらう。

「確かに。聞かれても良い会話なら、裏庭には呼ばないよ?完全に告白だな〜これは」

「雪華ちゃんもそう思う?やっぱり告白だよね〜!」

「うんうん!」

「も、もうっ、雪華さんまで!」

そう言う彼女は恥ずかしそうにきていた。実際にそれが告白だともう分かっているのだろう。

「ふふっ」

楽しいなあ、この空間は。私はいつもとは違う女子同士の楽しい昼休みを過ごした。


雪華はどうやら、彼女たちとご飯を食べるらしい。なんとなく、寂しい感じがする。いつか、雪華が完全にそちらに行ってしまうのではないか、と。

(いやいや、何を考えているんだ僕は)

とりあえず平常心を保ちつつ、僕は今日一緒に食べる子を見つける。ちょうど教室の隅に一人の男子がいるのを発見した。これは良いチャンスなのでは?嬉しい気持ちで、僕はその子のところに行こうとしたのだが、、、。誰かが後ろから僕の肩を掴んできた。

「さーきと!」

「うへっ」

「なぁ〜に変な声出してんだよ〜。一緒にお昼食べるぞ」

彼は、クラスのリーダー的存在の篠塚健吾である。おまけに、誰一人として取り残さない優しい人だ。この言葉が彼の性格を物語っている。さて、どうしようか。一緒に食べる?せっかく誘ってもらったのだから、断るわけにはいかない。ただ、さっきまで誘おうとしていた彼が気になる。なら、彼も一緒に食べていいか、健吾に聞いてみようか。その前に、彼に聞いてみないと。

「ね、もし良かったら、僕たちと一緒にご飯食べない?」

「え、良いの?」

彼は目を丸くする。そんな提案をされるとは思わなかったんだろう。

「うん。全然良いよ。食べよう」

「分かった。ありがとう!」

よし。これで大丈夫だろう。

「あのさ、篠塚さん、彼も、一緒に良い?」

「お!良いぜ。人数が多いほうが楽しいからな!」

健吾は相変わらず誰にでも優しい。しかも、明るく自信家で、頼りになり、みんなを引っ張っていける存在だ。そんな彼のような人が、彼女とお似合いなのだろう。分かっている。僕が、彼女の目に留まらないことぐらい。そうだ。同じクラスメートっていうだけで嬉しいのだ。そう、嬉しい。自分に言い聞かせながら、食べるみんなと机を合わせた。


ご飯を食べながら聞けば、健吾はどうやら今日彼女に告白をするらしい。今、なんとも言えない気持ちになっている。僕は彼女のことが好きだ。だけど、健吾を応援したい自分がいる。ただ、彼女と少しでも近づきたいと願ってしまう自分もいる。矛盾しているのだ、自分の心は。健吾に嫉妬はない。健吾が彼女に告白して、もし成功した場合、おめでとう、と言える自信があるのだ。いや、なくてはいけないのだ。僕よりも、健吾のほうが彼女にお似合いなのは、分かっている。だからだ。嫉妬なんかない。それに、僕は彼女にとって一人のクラスメートでしかないのだ。目もくれないだろう。それでも良い。それでも良いから、僕は健吾を応援する。

「頑張って」

「おぉ、ありがとう咲人!ちょっくら頑張ってくるわ」

「健吾頑張れよ」

「頑張れ!」

口々にみんなが健吾を応援する。一人で思うのは、もし、彼女が健吾を彼氏にしたら、僕は、どういった気持ちを抱えれば良いのだろう。嫉妬はない。それはたしか。ただ、僕は、彼女を諦められるだろうか。

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