触40・触手さん翔ぶ

扉を抜けると大きな空洞が広がっていた、そしてそこには多数の人だかり。

かなり騒がしくギャーギャーと何かしら叫んでいる様子。


その中心には巨大な人、どうも叫んでいるのはそれのようだ。

頭から足先まで茶色で素っ裸、これが囚われている大精霊か。

大精霊の周囲を半透明なドーム状のが囲っており、これに閉じ込められてるんだろう。


『だーせー!!暇過ぎるしお腹空いたー!!プリン寄越せー!!!』


ドームをゲシゲシ蹴りながら大声を上げている、大精霊言う割に何か子供っぽいな。


「くそっ、このままだと結界が破損するっ!!貴様等何とかしろ!!」


ローブを着た人種数人がドームに両手をかざしている、成程あれは結界なのか。

かなり必死で押さえ込んでるみたい。


「と、言われてもの、こうなった大精霊様はワシ等でもどうにもならんぞ」


「ああ、怒りが静まるのを待つしかないな」


小さい髭モジャモジャのおっさん、これはドワーフか?と、豚頭のオークが暴れる大精霊を眺めながら答える。


「ちぃっ、役立たずな奴隷共め……ん?」


喋っているローブの男がこっちを見た、私達に気がついたようだ。

まあ、隠れるつもりなかったし良いんだけど。


「何だお前達は!?」


男は慌ててこちらを向く。


「私達はドワーフとオークを救出に来た者だ、彼等を解放して貰うぞ!!」


ビノセが剣を構えて男と対峙する。


「ええぃ、次から次へと面倒な……結界は我々が何とかする。お前達はあいつ等をどうにかしろ、それから各所から増員を呼べ!!」


周囲に居る簡素な鎧を着た連中がこちらに身構える。そしてその内の一人が近くにある大きな鐘を鳴らすと、盛大に音が鳴り響いた。


ドワーフとオーク達は急いで部屋の角へ移動していく、此方としてもその方がやり易いのでナイス行動。


「斬れ、斬り捨てぃ!!」


男の、暴れん○将軍の悪代官みたいな掛け声と共に鎧共が襲い掛かって来た。

ざっと20人くらいか、そこまでの数では無いものの、この後に増員がやって来ることも考えるとさっさと倒してしまった方が良いだろう。


うちのスケルトン部隊にメアリー、それとビノセとパディカが対処にあたる。

クオはドワーフ達の方へ走って行った。


スケルトン達が各々鎧達を相手にし、ビノセとパディカがサポートに入る。

メアリーはスケルトン達に指示を出しつつ、魔法で遠距離から援護を行う。


で、私はというと……うん、やることがない。

いやね?サボってるんじゃないんですよ?こっちに出番がないのよ。


本当だよ?


皆が戦ってるのを眺め暫く。


……あれ?おかしいな。


そろそろ恐怖が発動する頃合いだと思うんだけどな、一律って訳でもないのか?

結構相手減って倒れてるしまあいっか。


何て思っていると入口の扉からドカドカと、鎧を着た連中が次から次へと中に入って来る。


増援か、結構来たな。


と、最後尾から何かデカイのも進入してくる。

何だあれ?私の倍はデカイんだけど……あれ人種じゃね~よなぁ……


ひ~ふ~み~……10体のでっかい鎧、頭はモノアイで赤く光っている。

グポォンって擬音がしそう。


「あいつ等、ゴーレムを持ち出したのか!!」


クオが唐突に叫んだ。

ゴーレム?ファンタジーで良く出てくるあいつ?


「それは作業用として使っていた我々のゴーレムを戦闘用に改造した、戦術級の特別製だ!!一体だけでも一般兵100人分の戦力を有している、気をつけるんだ!!」


え~っとつまり合計千人分か。結構なの投入してきたなおい。


「それから、そいつ等は精神が無い人形だから御子様の恐怖も効かないぞ!!」


マジで、てことは時間かけても無駄か~

となるとさっさと倒してしまうのがベストか。


「俺達はスケルトンとエルフ、ゴーレムはあの魔物を相手にしろ、掛かれ!!」


先頭に居る一人が号令を掛けると一斉に展開して私達を取り囲む。

どうやら私にも出番が回って来たようだ。


さてどうしようか、一体100人分とはいえ実力が分からんし、とりあえず牽制で殴ってみるかな。


正面に居る一体の顔面目掛けて触手でぶん殴る。

硬い岩みたいな感触がしてガキィ!と鈍い音が響き渡る。

う~ん、こりゃ硬いな、びくともしないわ。今までの魔物の方が遥かに柔いぞこれ。


素手じゃ無理と、んじゃ次は……乙女汁。


触手の口から乙女汁を吐き出してゴーレムの足に当てる。

これで足止め出来ないかね……って、あ、駄目だこれ。

足動かしたら固まった乙女汁を地面の岩ごと剥がしやがった。


とんでもね~馬鹿力してやがるわこいつ。


素手は駄目、乙女汁の足止めも無理と。

次はどうしようかと考えていると、ゴーレムが殴り掛かってきた。


数本の触手でそれを受け止める。

だ~!!痛ぇぇぇ!!


何とか防ぐも私の身体が後ろに激しく押される。

こんにゃろ、これでも食らえ!!


乙女汁を2M程の大剣状に形成してゴーレムの脳天に叩きつける。

必殺!!乙女バスター脳天唐竹斬り!!


だがこれもさして効果が無いようで、派手な音はするものの弾かれてしまう。

くそぅ、これも駄目かい、硬過ぎるわ!!


さて、こんだけ頑丈だと普通に攻撃しただけでは効果無しか。

となると……あれ使ってみるか。


この前習得したゲップ、もとい風の魔法。

あれから練習して色々試したんだが、有用そうな使い道を発見した。

威力的にはまだまだなんで普通に使っても効果薄そうなんだが、あれならもしや。


私は数本の触手を地面に向ける、そして魔法を発動させた。

触手の口から盛大に突風が吹き出し身体が浮き上がる。

そう、私は風の魔法で翔べるようになったのだ!!


翔べ!!乙女バイン!!

乙女シュート乙女バイン!!


そして別の触手を真後ろに向けて此方からも魔法を使う。

それは勢い良く噴出し、ジェット推進となる。


つまりただ翔ぶだけではない、高速移動も可能にしたのだ。

ただ、燃費がすこぶる悪くて、常時発動させる為にあっという間に魔力が底を突くのが欠点。


故に短期決戦用である。


さて、このまま体当たりしても良いんだが、ここでもう一手間加える。

乙女汁で前方にドリルを形成して、風で自分を超高速回転させる。


後は想像がつくだろう。


ゴーレム目掛けて突進である。


食らえ!!超乙女スピィィィンアタァァァァック!!!


かくして私はゴーレム目掛けて突っ込んで行った。

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