触38・触手さん鉱山を目指す

帝都にある大神殿の一室、金の装飾が施された机で執務を進める大神官長の背後に突如気配が生まれる。


「ご報告します、モル大森林近辺の砦が強襲され、捕らえていたエルフ共が連れ去られたとのこと」


黒ずくめの、フードが着いた外套を身に纏う男に語りかけられ筆を止める大神官長。


「……犯人は?」


「奇怪な触手の魔物、それと数名だそうです」


報告を聞き大神官長はため息を吐き出す。


「奴め……外に出てきたか……で、その後の行方は?」


「砦を落とした後移動したそうですが行方は不明とのこと、魔法で移動したものと見られます」


「……同行していた者の仕業か……?……分かった」


再び筆を進める大神官長。


「それから……」


「……まだ何かあるのか?」


背筋が凍るような気配で問いただされ、フードの男は思わず身体を震わせる。


「はっ!触手の魔物と交戦した者達については如何いたしましょう、精神に異常をきたし、マトモな戦力にはならないと報告を受けていますが……」


「ふん、研究室にでも回しておけ、実験材料くらいにはなるだろう。兵等いくらでも居るのだからな、その分補充しておけ。他には?」


下らないとばかりに問い返し書類を1枚書き上げ、次の紙を取り出す。


「い、いえ、報告は以上です。失礼します」


言うと男の気配が消えた。


「……忌々しい堕とし仔め、1000年の時を経て再び現れるとは……それに、結界の外に出たということは、一緒に居た者達の仕業か……」


「……だが丁度いい、あれの実験も兼ねておくとするか」


その後、1人だけになった部屋で筆の音が延々と続いていた。



……


モル大森林での宴会の後、神殿へ戻ってきて明くる日、私はベッドから起き上がって外に出ると、エルフにスケルトン、更にはゴブリン達も加わって家の建築作業を始めていた。


今後増えるであろう人員の為に、今のうち受け皿を用意しておこうというメアリーの提案だった。


ちなみに余っているとはいえ敷地は有限である為、平屋ではなく五階建くらいのマンションタイプにした。これならかなりの人数が収容出来る。


マンションタイプを提唱したのは私だ、誉めてくれてもいいぞ。


や~しかし一気に賑やかになったな、今後は家だけじゃなくて食料の確保ももっと必要になるだろう。

いっそ洞窟の周辺に畑や牧場作るか?あっちは土地いっぱいあるもんな。


皆が作業をしているのを眺めていると、指示を出していたメアリーがこっちにやってきた。


【御子様おはようございます、次の行き先についてお話がございますので食堂へ参りましょう、朝食も用意出来ておりますので】


促されてメアリーと一緒に食堂へ向かう、

中に入るとビノセとパディカが食事を取っていた。


私とメアリーが着席すると、スケルトン達が厨房から食事を運んできてテーブルに並べる。


焼きたてのロールパンとベーコンエッグ、それと新鮮な野菜のサラダにオレンジジュース。


【食べながらで構いませんのでお聞き下さい、次の行き先、それからの事をお話させて頂きます】


言われてロールパンを1つ掴んで口に運ぶ、パンの香ばしさとバターの風味が口内に広がる。


【まず、次に向かう場所はここから南にあるウチャデ鉱脈です。ここはドワーフやオークが数多く住まう鉱山なのですが、人種により長年支配されているそうです】


「うむ、彼等は人種に奴隷として鉱石類を発掘させられているそうだ」


ジュースを一口飲んでビノセが説明を加える。


【ここで救出活動をし、その後は西にある海洋種が住まうルーデ海、竜種の居る北のエシータスク山脈へ向かいます】


竜も居るのか、しっかしあっちこっち侵略してんだな人種って。

あ~、口にした卵が濃厚でベーコンもいい脂が溢れてくるわ。


【ここまでが我々の向かう先なのですが、同時進行でスケルトンによる兵を増やしたいと思います】


スケルトン兵?


【正直なところ、現状今の我々は人種に対抗する人員が全く足りていません。御子様のお力が人種に対して絶大とはいえ、全てを賄うのは無理でしょう。御子様もまだ完全とはいえませんし】


ふむ、確かに。


「成程、して、どのようにスケルトンを増やすのだ?」


ビノセが質問する。

確かに今回みたいな増員は難しそうなんだけど……


【ご安心を、スケルトンの作成には今回のような白骨死体を使う以外に、魔力そのものによって無から作り上げることが可能です。但しこの場合は知識や経験も零からなので育成が必要にはなりますが】


魔力だけでいい分一長一短てとこか。


「ふむ、して、どのくらいのペースで増やせそうか?」


【そうですね……御子様の魔力をお借りしなければいけないのですが、今なら1日100体くらいでしょうか。ただ、収容も考えないといけませんので無尽蔵という訳にも参りませんが】


家作りつつ補充しないと駄目ってことか。まあスケルトンが大量に外に居られてもね。


【尚、申しましたように即戦力には難しいので、今回の様な方法でのスケルトン増員も行っていくつもりです。なので、遺体を見つけたら都度回収して頂けますでしょうか】


「分かった、出来るだけやってみよう」


ジュースを飲み干しビノセが了承した。


う~む、これは大所帯になるなぁ、もっと開拓しなきゃ駄目だな。

残ったサラダを頬張り食事を終えて私は自室へと戻って行った。


尚、ピヨ彦はまだベッドで寝てた。

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