触16・触手さん人間と遭遇する
「う~っしこんなもんかな」
大きな麻袋に果物を積めて口を紐で締めて触手に引っ掻ける、これで食物は数日分は確保出来る、火打ち石も入れた。
ゴブリンが袋を一緒にくれたのだが、手軽に荷物を持ち歩く手段が限られている私にとって、これはとても重要だった。
なんせ触手で直持ちか石の箱に入れて引っ張り歩くしかなかったからな、実にありがたい。
さてと、んじゃ準備も出来たし出発しますか。
目指すは洞窟の上層、地図頼りに進んでいこう。
拠点を後にし天井の鍾乳石を伝って移動していく。
いや~地面這いずってたときと違って早いわ~、10Mくらい一気に進めるからね。
ゴブリン村の上を追加して更に進む。途中、石掘ってるゴブリンがこちらに気がついて手を振ってくれた。
私も挨拶がてら触手を振り返す。
それから進んでいると、天井の鍾乳石が見当たらなくなったので降りて、地上を這って進むことにした。
う~ん、やっぱ這って移動は遅いな。
緩いカーブの道をずりずり這いずっていると、前方から淡い光が壁を照らし、声が聞こえてきた。
どうやら複数居るようで、サーモアイが壁の向こうを捉える。
ゴブリンよりも大きい、二足歩行だし…もしや人間?5人で隊列を作ってるようだけど…
徐々にそれは近づいてきて、そして出くわした。
金属製の鎧着てるのが2人、ローブ着てるのが2人、身軽そうなの1人。
やはり人間だった。男女混合のようだが…彼等の周囲に浮かんでる光った球は何だろう、松明な訳ないしなあんなん。
じ~っと見てるとローブの女が突如悲鳴を上げた、他の4人もそれに釣られてか叫びだす。
う~ん、何を言ってるか分からん。な~んか日本語みたいな発音してんだけど単語がよ~分からん。
そうこうしてるともう1人のローブ、年取ってるのか長い白髭が生えてる、が手に持ってる杖をこちらに向けてきた。
そして何やら喋って…向けた杖の先から火の球が揺らぎ生まれるとこちら目掛けて一直線に飛来する。
うえぇぇ!!?何それ、まさか魔法!?魔法あるの!!?
驚いてあわあわしてる間に一気に向かってくる火球、あかん、これ避けられない!!
それを防ごうと私は触手を構えた…が、火球は目の前で光の粒子となって消えてしまった。
え?何が起きたん?私何もしてないぞ?
謎の現象に呆然としていると、叫ぶ白髭ローブが何発も火球を飛ばしてくる。
女ローブも加わって、さながらガトリングガン。
が、その全てが私の眼前で虚空に消えていく。
はてどうしたもんか…と思案していると、女ローブが叫んで…後ずさると、あ、逃げてった。
それが呼び水になったか他の連中も叫び逃げ出す。
え~っと…何だったんだあれ。
魔法が目の前で消えたのも意味分からんし…何なん?
彼等が去って行った方を暫し見つめ、考えても分かりゃせんので先へ進むことにした。
そろそろお腹も減ってきたな~っと。
…
……
それから数刻後
豪華なローブを身に纏う男が、燭台の灯りで照らされる長い廊下を足早に進んで行く。
そして大きな扉を勢い良く開けると、赤い絨毯の先にある玉座まで歩み寄り跪ずいた。
「陛下へ御報告致します、…やはり目覚めていました」
「…間違いないか?大神官長」
「はっ。迷宮に施されている封印への干渉が観測されたので、至急調査隊を送り込みましたが、全員恐慌状態で逃げ帰って来たとのこと」
「また、正気に戻った者によると魔法が効かなかったそうです」
陛下と呼ばれた男は額に手のひらを当てると深くため息をついた。
「尚、アレを直視して数秒後に恐慌したとのことですので、目覚めて間もないかと…」
ローブの男が顔を上げ陛下、この国の皇帝の様子を伺う。
「…そうか、まだその段階か。しかしこのままだと…」
「はい、いずれはこの大陸全土が恐怖に包まれ…人種は滅びます」
「過去の記述によれば、アレは存在するだけで恐怖を撒き散らし、症状が進むと恐怖から逃れようと、自ら命を絶とうとするとされています。しかもその効果は極めて広範囲、もし我が国にアレが訪れれば…」
「考えたくも無いな…」
「はい」
再度深い溜め息をつくと皇帝は立ち上がり、
「緊急事態である、帝国神官庁は至急これへの対処を進めよ。最悪集落の1つや2つ犠牲にしても構わん!!」
「はっ!!」
大神官長は命を受け王室から足早に飛び出して行った。
「…這いずり廻るもの…恐怖を撒き散らしもの…『堕とし仔』」
皇帝は玉座に力なく座り込むと虚空を見つめ、3度目の溜め息をついた。
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