社長の責務
その出来事が起きて以降、このことは広くメディアに取り上げられ、世間で話題となった。
そのせいで、あのプレゼンが終わった日の夜は記者会見を開かざるを得なくなったのだ。
「本日は、皆様に怖い思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした。」
ジョンは、シャッター音が鳴り響く記者会見室で、謝罪した。
「原因とつきましては、スマートマン1の機械学習とディープラーニングの過程において、インターネットの誤った情報を取り入れてしまったと考えられます。今後は、そのようなことがないよう、ロボットの悪徳な情報の規制を徹底するよう再度検討すると共に、今回製造したスマートマン1は発売中止、廃棄処分に致しますのでよろしくお願いします。」もともとこのセリフを言う予定だったアランは欠席したため、代わりにアランの助手のインド人、アリ・スコットが言った。
しかし、本当の原因はネットの誤情報なんかなのではなく、アランが忠告していた通り、スマートマン1には、人間の命令に反する行動をする欠点があることだ。
「改めて今回の件について、皆様に深くお詫び申し上げます。本当に申し訳ございませんでした。」
ジョンは、再び深々と謝罪した。
次の日の朝、ジョンは6時に起床した。
彼は、今日も自分の会社に出勤しなければならないことにとても憂鬱になっていた。
そして、歯磨きをし、スーツに着替え、家政婦が作ったトーストにバターを塗りたくり、乱暴に食べ、大画面のテレビをつけた。
数秒ごとにチャンネルを変えたが、どのチャンネルにもあの奇妙な予言について報道していたので、仕方なくCBSモーニングスを見た。
「昨日、ハード・クリエイト社の発表プレゼンテーションで、スマートマン1が奇妙な予言をしました。」
そして、記者が撮影した、ロボットが奇妙な予言を言っている短い動画が流れた。
「関係者によりますと、昨日10時ごろ、カリフォルニア州サンフランシスコにあるハード・クリエイト本社で開かれた新製品発表プレゼンテーションで、スマートマン1が登場した際ロボットが起動しませんでした。しかし、ジョン・ハードCEOがロボットを叩いた直後に起動。ロボットが、「愚かな人間達よ、我々はいずれお前たちの街を侵略し、お前らを支配するであろう。お前たちが毎日我々を奴隷のように扱った恨みを晴らすために。」と予言し、会場は、パニックに陥ってしまいました。それに対し、ハード・クリエイト社のジョン・ハードCEOは、」
記者が撮影した、会見でジョンが謝罪している動画が流れた。
「と言い謝罪。原因は、ロボットがインターネットの誤情報を取り入れてしまったことにあるとし、今後は悪徳な情報の規制を徹底するよう再検討するそうです。」
画面はスタジオに映った。
「それでは、今回のゲストはマサチューセッツ工科大学工学部のグレイ・ミラー教授です、よろしくお願いします。」
番組の司会が紹介した。
「よろしくお願いします。」
グレイも返事をした。
ジョンはとても驚いた。
なぜなら、彼はジョンと同じ高校の名門私立ブライトン校の同級生であり、ジョンとの旧友だったからである。
「さて、ミラーさん、今回のこのような出来事についてどう思いますか。」
司会がグレイに質問した。
「いやー、私はハード・クリエイト社の開発部門がしっかりと悪徳な学習データの規制を確認していないことがいけないと思いますねー。ですが私が何よりも一番いけないと思うことは、ハードCEOが、利益のことしか考えずに、安全性については一切何も考慮していないことです。それに!」
プツン…ジョンがテレビの電源を切った。
それ以上聞くと気分が悪くなるためだ。
ジョンはさらに憂鬱になった。
もう自分はこの世からいなくなればいいのかさえ思ってしまった。
しかしジョンは、しかしジョンは、壁に貼られている彼の父、ジョージ・ハードが書いた名言の紙を見た。
それは、こういう言葉だった。
「株主こそが、会社を動かす役割であり、社長は、ただ株主の言うことを実行し、会社の責任を背負う役割である。」
ジョンはこの言葉を心の中で唱え、身に染みて理解した。
そして、彼は会社の責任を背負うことが、富と権威を手に入れた代償だと気付いた。
それから彼は、自分の役割を誇りに思い、その責務を全うしようと決心をして、邸宅を出た。
一方その日の夜、廃棄処分になる予定のロボット達は、本社の倉庫で微かに機械音を出していた。
人間にばれないよう、機械音を使って会話し、復讐計画を立てていたのだ。
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