第四話 闇に潜む刃
次の目的地である町を目指し、瑠璃と玖郎は歩みを進めていた。道中に宿はなく、野営にもすっかり慣れてきている。時折獣が出現することもあったが、玖郎は直接手を出すことを避け、瑠璃が自分の力で倒せるよう手助けしていた。
「焦らず、敵の動きを読むことです」
玖郎の落ち着いた声に支えられながら、瑠璃は確実に成長していることを実感していた。
ある夜、二人は林の中で野営をすることになった。焚き火の赤い炎が揺れ、夜風に木々の葉がざわめいている。無言のまま火を見つめる時間が流れたが、その静寂に気まずさは感じられなかった。
「今夜こそは私が見張りをします」瑠璃は意を決したように言った。
しかし、玖郎は首を振り「昼間のうちに適宜休息を取っていますので」と答える。その言葉に瑠璃は肩を落とし「そうですか…」とだけ返すと、寝床に横になった。
まだ自分は信用されていないのだろうか?そんな考えが胸をよぎる。玖郎に助けてもらってばかりで、何も返せていない自分が歯がゆかった。それでも、静かに目を閉じた。
▫️闇の訪問者
しばらくして、耳元で低い声が聞こえた。
「瑠璃殿」
瑠璃は驚いて目を開けた。玖郎が座ったまま辺りを見渡している。
「…どうかしましたか?」と瑠璃が小声で尋ねると、玖郎は短く「何かの気配が。獣ではないようです」と答えた。
瑠璃も耳を澄ませる。林のざわめき以外、何も聞こえない。だが、玖郎の緊張した面持ちに、ただ事ではないことを察する。
次の瞬間、瑠璃の視界から玖郎が消えた。慌てて身を起こすと、背後から低い声が響く。
「何者だ」
振り向いた先で、玖郎が黒装束の人物の一撃を受け止めていた。焚き火の明かりがその鋭い刃を反射している。
その人物は一切言葉を発さず、その息遣いすら聞き取れない。男か女かも判別がつかなかった。
その異様な存在感に、瑠璃は思わず後ずさる。だがそれも束の間、四方からさらに黒装束が現れた。
「お下がりを!」玖郎の声が鋭く響いた。
混乱の中、瑠璃は薙刀を握りしめ応戦しようとする。しかし、瞬く間に焚き火が消され闇が辺りを包み込む。暗闇の中で何が起きているのかもわからず、刀同士がぶつかる音だけが響いた。
やがて、音が静まり返る。
「…玖郎殿…?」瑠璃は震える声で呼びかけた。しかし返事はない。
「……玖、」再び呼びかけようとしたその時、暗闇から低く落ち着いた声が返ってきた。
「瑠璃殿」
目が闇に慣れてくると、傷一つない玖郎の姿が浮かび上がる。瑠璃はその場にへたり込んだ。
「ご無事か」玖郎が瑠璃の顔を覗き込む。瑠璃は無言で頷いた。はっとして、「玖郎殿こそ、お怪我はありませんか?」と尋ねるが、玖郎は静かに首を横に振るだけだった。
▫️静かな問い
「今のは…誰だったのでしょうか」瑠璃は恐る恐る尋ねる。玖郎はしばらく沈黙した後、口を開いた。
「…旅人を狙った賊のようです」
その言葉に、瑠璃は素直に頷いた。
玖郎は再び焚き火をつけ、辺りが赤い光に照らされる。
火の音と静寂が夜を支配する中、瑠璃はその炎をじっと見つめる。
今夜はとても眠れないだろう。玖郎がすぐ近くにいるのを感じながらも、どこか心の中でざわめく不安が消えることはなかった。
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