2.

 あれから2週間が過ぎていた。

 学年が違うのもあって、校内で智花と顔を合わせる機会は少なく、恋人らしいやり取りといえば、アプリを使ってのメッセージの送受信と通話くらいだった。

 その内容も、日々の出来事や学校の課題、好きなミュージシャンや最近ハマっているアニメの話とか、そんなところだ。

 別にこれだけなら、友人関係となんら変わりはない。

 智花は──彼女はいったい何がしたいのだろう。



 そんなある日、本校舎の階段踊り場で智花とふたりきりで鉢合わせた。

 周囲を気にする様子をみせたかと思えば、突然のハグ。

 解放されたのは、結構な秒数が経ってからだった。


「学校の中だと、〝禁断の恋〟って感じがして、ドキドキが止まらないですよね」


 両手を握られたまま笑いかけられる。

 頬だけでなく耳まで紅いので、本当にそう思っているのだろう。

 あまり自覚はしていなかったが、わたしたちは同性のカップルだ。

 時代が時代なら、石を投げられたり縛り首にもなる危うい存在。いや、現代でもそんなには違わないか。いまだ世界には同性愛者に寛容じゃない人間も多いと聞く。だから『みんなには秘密にしてください』と、智花に口止めをされていた。


「わたしは……別に平気だけど」

「えっ、そうなんですか? だって、バレたらヤバいですよ? クラスどころか、全校生徒にいじめられちゃう可能性だってあるんですよ?」

「言いたいヤツには言わせておけばいいじゃん。なんかされたら、その時はその時で、そいつを引っぱたけばいいし」

「アハハ、強いんですね。……もしそうなったら、わたしを守ってくれますか?」

「うん」

「小日向先輩……」


 消え入りそうな声で呼ばれた直後、唇を奪われる。

 告白といいハグといい、智花は何かと積極的な子のようだ。


「先輩のこと、好きになって良かったです」


 誰かの話し声と靴音が聞こえてくると、智花は甘い香りを残して階段を降りて行った。

 去り際の微笑ほほえみが、年下とは思えないくらいに大人びた魅力を感じさせた。


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