3.
『今度の日曜、うちの親が留守なんで遊びに来ませんか?』
午前0時。ベッド上で見たそんな通話アプリのメッセージに、ふと考える。
わたしたちは付き合っているとはいえ、デートらしいデートはまだ一度もしたことがなかった。
ふたりきりでの下校は何回かあっても、それは駅までの短い道程だけで、とても数には入れられない。
智花の誘いは当然の流れではあるけれど、だからといって、初デートの場所が彼女の部屋というのはどうなんだろう。
わたしは恋愛経験がないため、段階的に早いのか適切なのかの判断が難しく、返信に少しばかり困ってしまった。
でもまあ、既読の表示が付いているだろうから、とりあえず返事は今すぐじゃなくても大丈夫だろう。
わたしはスマホを閉じて、そのまま眠りについた。
*
当日のお昼前、最寄り駅の改札付近で待ち合わせをして智花の家まで一緒に向かう。
途中にあったコンビニでお菓子でも買おうかと提案したけど、「気にしないでいいですよ」と笑顔でやんわりと断られた。
住宅街を15分くらい歩いたところに結構なくだり坂があって、その先に見える大きな分譲マンションに智花は3人家族で住んでいた。
正面エントランスホールのオートロックを解錠した智花に続いてエレベーターに乗り込む。ここまで駅からずっと、智花はわたしの指先にすら触れていない。知り合いに見られないように警戒しているのだろうか──この時なぜか、わたしの心は虚しさを感じた。
智花の部屋は、とてもきれいに整頓されていた。
白い勉強机と同じオーク材の本棚には参考書と問題集、少女漫画がそれぞれ揃えられて並んでいる。小さなぬいぐるみもいくつか飾られていて、室内全体の配色もわたしの部屋よりは華やかで女の子らしい印象を受けた。
「えーっと……なにか飲み物を持ってきますね。ベッドに座っちゃっていいんで、くつろいでてください」
ふたり分の上着をハンガーに掛けながらそう言うと、智花は扉を開けたまま部屋を出て行った。
ベッドの上に座りつつ、スマホを取り出す。時刻はまだ12時を過ぎたばかりだ。
今日は何時頃に帰れるのだろう。
来たばかりだというのに、そんなことをつい考えてしまった。
そもそも智花は、何がしたくてわたしを部屋に招き入れたのかがよくわからない。会話だけなら電話でもいいし、もしかして単純に、一緒に居たいだけなのかもしれない。
開け放たれた扉のほうを見つめながら、恋人ってやっぱり面倒だなと思った。
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