交換条件
いやマジで……一体何がどうなってんの……?
目の前で起きた出来事を、把握する事が出来なかった。
夢なのか現実なのかすらわかんなかった。
ただ、わかる事は。
神谷は双子なんかじゃなかったって事。
隣の席の最低神谷と、あたしが出会った素敵神谷は、どうやら同一人物らしいって事。
毎日隣で過ごしてる神谷はあたしの顔すら把握してないのに、2回しか会ってない素敵神谷はあたしを“セーラ”って呼ぶ事。
え、マジでどういう事?
これじゃまるで、“神谷”の中に2人の人間がいるみたいじゃん。
だってやっぱり隣の席の神谷と、さっき見た神谷が同じ人だとは思えない。
顔は一緒だけど……っていうか肉体は一緒っぽいけど、中身が同じだとは思えない。
「ねぇ。1人の身体の中に、もう1人の人間って有り得る?」
夕食後。
リビングで熱心にスマホを覗く姉の隣に座り、さり気なく聞いてみる。
「あぁ解離性同一性障害でしょ」
「……え?」
「わかりやすく言えば2重人格」
スマホから視線すら上げずにアッサリとどうでも良さそうな感じに返して来た姉は、更にどうでも良さそうに続けた。
「まぁそれってある意味普通だけどね」
「普通……?」
「だってあんただってそうでしょ。2つの心持ってんじゃない?」
「2つの心……」
「そう。良い心と悪い心。こんな事しちゃダメだーって自分と、これくらいどうって事ないでしょって自分」
男子たちの悪行を止めようとした自分と、でもちょっとだけ神谷の秘密知りたいって思った自分。
「まぁ……ね。確かに」
「だからある意味普通なんじゃない?っていうかどうしたの。あんた心理学にでも興味あんの?」
「な、ないない。そんな難しい事わかんないし」
「だよねーあんたバカだしね」
「…………」
「ま、バカなんだから精々人に騙されないようにね」
「…………」
え。
もしかしてあたし、神谷に騙されてんだろうか。
実は学校ではあんな風なのに、ワザと素敵に豹変した自分を見せつけて「バカめ、ウソなのに」なんてコッソリ嘲笑ってんだろうか。
……困った。
最低神谷ならやりかねない気がする……。
いや、けどでも待って。
たとえそうだったとして、その理由がわからない。
神谷があたしを騙す理由……。
席が隣だから?
自分には吠えまくるケルベロスに、あたしが懐かれてるから?
まさか……あたしがバカだから!?
わかんない。
どんだけ考えてもわかんない。
まぁ、明日神谷の家に行けばもしかしてその理由もわかるのかもしれない。
実は「なーんだそんな事だったのかー」って笑って終わる話なのかもしれない。
こういう能天気なところがバカなのかもしれないけど。
でも考えてもわからない事をいつまでも考えてても仕方ない。
だから早々にベッドに入ったあたしは早々に眠る事にした。
だけどちょっとだけケルベロスの事を考えたからなのか、何故かケルベロスの夢を見た。
いつもはあんなに懐いてくれるケルベロスなのに、神谷並みに吠えまくられる夢だった。
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