第2話

「復讐、復讐〜♪」


 上機嫌で王都の通りを歩きます。


 周囲には私を元聖女と気づいている人もいる様子ですが、話しかけてはきません。


 そもそも聖女というのは強大な魔力を持つことで知られています。


 ですから、ものを知らないゴロツキ以外は絡んでなどこないのです。


 おっと、本題に戻りましょう。


 教会内での悪事をライフワークとしていた私ですが、追放されてしまい生きる目標を失ってしまっていました……先ほどまでは。


 そう、私は愚かなゴロツキにインスパイアされ、「復讐」という新たな目標を見つけたのです。


 これはなかなか楽しくなりそうです。


 もちろん相手は私を追放した教会——すなわち世界宗教『シュトロム教』。


 したがって敵に回すのは教会や王国だけでなく、最終的に世界にもなり得ます。


 まずはどんな手がいいでしょうか……。


 国家転覆、外患誘致、乗っ取り、世界滅亡、神殺し……夢が広がります。


 さまざま想像ゆめを膨らませながら歩いていると、ある老人が目に入りました。


 どうやら何かの布教活動をしているようで、チラシを配っています。


 しかし、『シュトロム教』ではなさそうです。


「どうか、みなさん『抵抗派』と共に……声をあげて、立ち上がりますのじゃ……」


 必死に『抵抗派』なるものの布教をするジジイ。


 しかし覇気のない声のせいか見向きもされません。


 ——あ、いいことを思いつきました。


 私はそのジジイに話しかけます。


「おじいさん、ちょっと話を聞いても?」

「ま、まさかその顔、そのお声……聖女ライカ様でございますか!?」

「そうですライカ様です。『抵抗派』についてお話を聞きたいのですが……」


  私がそう言うと、ジジイは目に涙を浮かべます。


「こ、これは感激ですじゃ……! ぜひこちらに、詳しいお話をさせていただきます」


 道端の邪魔にならない位置に移動し、ジジイの話を聞くことになりました。


「ワシの名前はウトヤと申します」


 ジジイはウトヤと名乗りました。


「ウトヤさん、『抵抗派』はシュトロム教とは違うんですか?」

「違くもあり同じ……すなわち我々はシュトロム教でありながらシュトロム教会・・に抵抗する者ですじゃ。」


 そうしてジジイは話を始めました。

 長いので要約しましょう。


 まず『抵抗派』の正式名は『シュトロム教 抵抗派』。


 彼らはシュトロム教徒でありながら、「現在のシュトロム教会とその聖職者は腐敗していて、苦しい生活の庶民の救済を忘れ、政治と癒着し権力に溺れている」と考えているようです。


 また、そうしたシュトロム教会に反発する勢力は最近各地に現れていて、『抵抗派』はその一派だということ。


 なるほど、合点がいきました。


 確かに私が教会にいたときも各地で増加する『異端分子』の存在は耳にしていましたから。


 ……なるほど。話を聞くほど、これは想像以上に使えそう・・・・です。

 私は口角が上がってしまいそうなのを抑え、表情を「庶民の生活を憂う聖女の顔」に戻して言います。


「……実は私も、同じ問題意識を持っていたのです。今の教会は、腐敗しています」

「わかってくださいますか!」


 ジジイは感激した様子です。

 私は話を続けます。


「先日、私がシュトロム教会から追放処分を受けたことをご存知ですか?」

「ええ。しかしあの教会がやること……やはり裏が?」


 陰謀論者は都合のいいように解釈してくれて助かります。

 私はさらに、わざと大袈裟に振る舞って話を続けます。


「その通りです! 私は庶民の生活苦に胸を痛め、異端分子——いえ『改革勢力』と言った方がいいでしょう、あなた方のような改革勢力に耳を傾けるべきだと主張したのです。すると——」

「まさか!」

「ええ、私は追放されました。表向きには横領罪とされていますが……」

「おのれ教会、なんと卑劣な……!」


 ジジイの人心を掌握することに成功しました。


 ちょろいものです。


 こうして私の当面の方針が決定しました。


 先ほど述べた通り、異端分子は最近増加しています。


 私は彼らをあえて拡大させ、利用し、王国の政治・宗教を乗っ取ることにしました。


 作り上げるのです!


 私の私怨を晴らすために国家を破壊する、私のための新興宗教リベンジ・カルトを!



◆————————————————————◆



 午後になり、議会では委員会質疑が行われていた。


「——私からは教会法25条についてお伺いします。条文に基づけば、司教あるいはそれと同等以上とみなされる者は、教会内での犯罪について懲役や死罪などほとんどの刑罰が免除されるとあります。しかしです。これは問題行動を起こした強大な魔力の持ち主を野放しにすることと同じではないでしょうか。この点の危険性について……」


 ひととおり質問を終えたのち、私は席に着く。


 すると、隣にいた先輩議員が話しかけてきた。


「シズ。教会法について追及するのはやめておけ。教会特権は文字通りの“聖域”だ。過去にも指摘した人はいたが変わらなかった。時間の無駄だよ」

「しかし25条は他の特権と訳が違います。司教と同等以上・・・・ということは、不正を働いた大聖女や大魔導師なども含まれます。そんなの操作不能の戦略兵器を街中まちなかに放置するようなものです。例えばこの前私が対応した聖女ライカは追放処分が限界で……」


 私は息切れしそうになりながら言う。


「まあそう早口でまくしたてるな。お前の若い正義感は買うが、そもそも暴れる大聖女を拘束しておくこと自体戦力的に・・・・容易じゃない。……今は大人しくしておけ、国家統一法の成立をもってしてすでにお前は充分お父さんの助けになってるんだ」

「別に私は父のために議員をやっているわけでは……」

「わかってる。とにかく、あんまり下手なことを言うとノヴァ家が異端分子だと思われるぞ」

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追放聖女の新興宗教《リベンジ・カルト》 しまかぜゆきね @nenenetan_zekamashi

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