第二話 証明してみせます!

「ど、どういうことですかぁ!?」


「言ってることが理解不能よ!!」


「説明を要求する……!!」


「お、おいっ!あまり引っ張るんじゃないっ!」



俺の言葉を聞いた3人は、それぞれ右腕・左腕・胸ぐらを掴みかかり、四方八方から引っ張られる。



「とっとと理由を話してくださぁぁい!!」


「早くしないと!どうなるか分からないわよ!!」


「命がいらないなら別だけど……!!」


「この状況で話せってのは無理だろ……」


「そ、それもそうでした!」



"ハッ"としたようにポニーテールの女子が気づくと、それに続いて二人も同様の反応を示し、俺は拘束から解放される。



「お前たちなぁ……俺たちは自己紹介もまともにしてないんだぞ?」


「た、確かに……」


「それは反省……」


「す、すみません……」


「……分かればそれでいい」



3人の反省が伝わったところで、早速俺の方から自己紹介を始める。



「とは言っても。俺のことは知ってるだろうから、指名されたやつから自己紹介を頼む」



彼女たちが理解を示したところで、まずはツインテールの女子を指差す。



「私は神城かみしろ 星羅せいらよ。趣味は読書で、特技は歌うことよ」


「へぇ〜」


「何よ。その淡白な反応は」


「別に。似合わないと思っただけだ」



神城が眉間に皺を寄せて睨みつけているが、そんなことは気にしない。



「神城はダンスが下手だな。さっきのレッスンは酷かった」


「なっ……!」


「もっと練習をした方がいいんじゃないか?多少は良くなると思うからな」



素直な意見を伝えたところで、今度はロングヘアーの女子を指名する。



「名前……慶童子けいどうじ 彩芽あやめ。趣味は将棋……特技は茶道……」


「親父臭っ」


「あ、あなたには関係ない……!」



神城の時と同じように、今度は慶童子に対して意見をぶつける。



「慶童子は、何と言ってもその表情だな。お前はこけしか何かなのか?」


「ち、違うっ……!!」


「そうか……日本人形のほうだったか」


「か、変わってない……!」



明らかにブチギレている慶童子を無視して、最後にポニーテール女子へと視線を送る。



「私は片瀬かたせ 陽毬ひまりです!趣味はお菓子作り!特技は走ることです!」


「見た目通りだな……」


「わ、私が普通だって言いたいんですかぁ!?」


「あまり大声で叫ぶな……」



鼓膜が破れそうになってしまうが、俺の口は問題なく動くようだ。



「……まあ。お前の笑顔は良かったな」


「ほ、ホントですか!?」


「他には何もないけどな。笑うだけなら猿でもできる」


「わ、私は猿ではありません!」



3人にが自己紹介を終えたところで、俺はそれぞれの顔を見やる。



「少しは楽しみにしていたんだがな。どうやら時間の無駄だったみたいだ」



これ以上話すことのなかった俺は、そのまま流れでレッスン場を後にする。



「ま、待ってください!!」


「……まだ何かあるのか?」



片瀬が待ったをかけたため、俺はその場で足を止める。



「このまま言われっぱなしでは!私たちの気は収まりません!」


「そ、そうよ!陽毬の言う通りだわ!」


「撤回してもらう……!」



ものすごい勢いで文句をぶつけているが、俺にとっては雑音にすぎなかった。



「で、では、今度のライブで……私たちの実力を証明してみせます!」


「へぇ……本気で言ってるのか?」


「当たり前でしょ!」


「マジのマジ……!」



彼女たちは、来週行われる地方公演で、自分たちの実力を証明すると豪語した。



確かに……彼女たちのライブも見ないで、アイドルに向いてないと言うのは、少し早過ぎたのかもしれない。



「そうだな……今度のライブを見た後に、改めて伝えるとしようか」


「ぜっっったいですからねっ!」



言動から溢れる自信は、俺の心を昂らせていた。久々の感覚に思わずニヤけてしまいそうになる。



「来週が楽しみだな。精々頑張れよ」


「言われなくても!」


「ギャフンと言わせる……!」


「そうかそうか」



それだけ話すと、3人は、何やら作戦会議を初めているようだった。



「本当に……」



誰にも聞こえないように呟くと、俺はレッスン場を後にするのだった。


    ◇


「な、何なのよアイツ!」


「ムカつく……!」


「絶対に許しません!」



みなとがいなくなったレッスン場では、"フェリーチェ"の3人による"プロデューサー批判会"が開かれていた。



八重やえ みなとがプロデューサーだって分かったときまでは良かったのに!」


「まさかあんなにも冷たい人だとは思いませんでした!」


「失望した……!」



彼女たちは期待に胸を膨らませていたが、それが一瞬にして消えていた。



「第一なによ!私たちがアイドルに向いていないってぇ!!?」


「もはや侮辱に近いですよっ!」


「最低……!」



思い思いに意見をぶつけ合うと、彼女たちの表情はスッキリとしたものになっていた。



「やっぱり、私たちだけで頑張るしかないみたいですね!」


「その前に、八重 湊に一泡吹かせましょう!」


「目にもの見せる……!」



改めて決意を決めた3人は、"プロデューサー"批判会を早々に終わらせ、レッスンへと戻っていくのだった。

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