第12話 刑事部774課②

マスコミはこの「ヴェルギーナの門」サイトの事は認識しているのだろうか? TV、新聞などの大手メディアは今のところ一切報道していない。大手メディアでない雑誌やゴシップ紙やなども取り上げていない…不思議だ。ネットの中でもまだまだマイナーな部類だからなのだろうか?


今だに毎日かかってくる通報に対して警察の対応としては

「その件に関しましては現在調査中です。」

の一文のみだ。

何を言われてもこの一文でお茶を濁している状態なのだ。


実は…警察は電話対応(といっても上記一文を言うのみ)のみで、これといって対処していない。

していないという事もないのだが…「774課」に丸投げさえれた状態というか…

つまり自分と中田さんの2人でHPを監視しているぐらいなのだ。


正直こんな案件、一体どうやって調査すればいいんだって感じなのだが…


そんな自分とは裏腹に、中田さんは早い段階からこのサイトを独自の伝手で調べていたらしい。


「えっ、サイトが見つからなかった? 存在していない? そんな馬鹿な…。」


中田さんから調査結果を聞いて驚いた。

インターネットサイトが存在していないなんてありえない…どこにも繋がっている痕跡がないサイト…それはもはやインターネットというこの世界の仕組みを逸脱している…。


「この世界の常識ではない理(ことわり)で動いているのだろうな…それが真実ならばカナメと名乗る管理者は…本当に高階位者という存在なのかもな。」


中田さんは平気な顔をして淡々と話しているが、自分のような凡人にはそんな常識から逸脱した存在をすんなりと受け入れる度量などないし、認めたくないな。


という事はこの荒唐無稽な殺害動画も本物…なのか?

1990年ではありえない、いや現在でもありえない画質、アングル、全てにおいて信じ難いこの動画が本物?

……ウソだろう。


「さっきお前に持ってきてもらった現場検証の時に撮った部屋の写真と、この動画を見て見ろ。寸分たがわず同じ物、配置だ。まさに殺害当時の動画だと思う。信じられない事だがな。」


中田さんの言葉に写真と動画を見比べてみる。1980年代に流行った装飾や柄だ。部屋の片隅に置いてある人形なんかは当時はあまり人気の無かったキャラクターだったのだが、今ではプレ値がついてなかなかのお値段になっているという。

これだけの当時の物を買い集めて、わざわざ現代で再現して撮影するというほうが無理筋か。


動画の殺害映像は、一般には公開されていない父親の俊二さんへの腹部へ2か所の刺し傷を筆頭に、妻美津子さん、華さんの刺し傷、暴行痕なども警察で死亡解剖した結果とぴったり一致している…。


それに何よりも覆しがたいのは…殺された加藤 俊二さん(当時48歳)、加藤 美津子さん(当時46歳)、加藤 華さん(当時22歳)の三人は…資料にあるまんまの顔なのだ。

髪型、死亡時に来ていた寝間着などすべて一緒だ…いくら生成AIが発達した現代でもここまでの再現はできないだろうと思う。

疑いようもない本人だ。


頭が痛い。比喩ではなく本当に物理的に頭が痛い。

自分のような凡人には理解がしがたい現象に頭が追い付かないのだ。


いっそ「ドッキリでした~」と警察庁全体で新人刑事を引っかけたんだと言ってくれれば、自分は喜んで全裸になって都内を走り回って道化を演じてももいい。そんな妄想で現実逃避してしまうぐらいに困惑している。


「まさに現代のオーパーツだな。」


中田さんが言った通り、現代の技術では解明できない現象、オーパーツと言ってふさわしいかもしれない。

その一言をすんなりと受け入れれば何か心が落ち着いた。

もう考えても分からないことだらけなのだ。これ以上悩むのは無駄なのだなと体が求めたのかもしれない。

心の安寧を手に入れるためにもそう思い込むことにした。


「それならば今の我々には、この事案の成り行きをただ見守ることぐらいしか出来ませんね。」


自嘲気味につぶやいた。

現在の法律では証拠とはなりえないかもしれないし、検察も立件することが出来ないだろう。


「そうだな…それじゃあそろそろ出かけるか。」


中田さんは立ち上がって背広を羽織って部屋を出た。

自分は慌てて鞄を手に取って中田さんを追いかける。


「一体どこに出かけるんですか?」


中田さんは車に乗りエンジンをかける。自分が助手席に乗り込むのを待って教えてくれた。


「成り行きを見守りに行くのさ。風間忠雄の最後をな。」


……………………………


なぜか中田さんはこちらをじっと見てタメにタメてキメ顔で告げた…





…こっちみんな。


もちろん口に出して言わずに心の中でつぶやいた。

こうして自分たちは風間が入院している病院へと向かったのだった。

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