第11話 刑事部774課①
「中田さん資料持ってきました。机に置いておきますよ。」
色々な資料や本が積み重なって散らかった中田さんの机の上に、保管資料室から引っ張り出してきたファイルをどさりと無造作に置いた。
「……」
聞いているのか聞いていないのか分からないが…返事をしないのはいつもの事だ。
本人曰く、別に意地悪で無視をしているわけではなく、集中していると周りの雑音が聞こえないらしいとの事。
まぁ正直、最初は感じ悪いなとは思ったけれど、今ではじゃあしょうがないなと思うぐらいには慣れたものだ。
見た目は…無精ひげを伸ばし、身だしなみに無頓着な、だらしないおじさんといった感じだ。
身長も高く体もがっしりとしているので、もうちょっと身だしなみを小奇麗に整えれば、
かなりイケているおじさん、イケオジなのにとは同期の女性署員さんの言。
まぁ確かに…若い頃はモテモテだったに違いない。
それに中田さんはキャリアだ。
キャリアと言ってもお飾りではなく、ちゃんと実力で刑事部に抜擢されたそうだ。
若い頃はモテモテだったに違いない…だが、今は残念な感じだ。
そんな実力のある彼が警視庁いわゆる、「東京警察本部」の「刑事部」の花形「捜査一課」「捜査二課」ではなく、
刑事になったばかりの新人の自分と2人きりの名前もない課に在籍しているのが謎なのだが…
他部署からは「名無し」、通称「774課」と呼ばれている。
そんな「774課」の自分の仕事は…他部署の手伝いをしたり、他部署を手伝ったりしている。
つまり雑用係だ。
まぁ自分は新米なのでしょうがないのだが…
中田さんは、何をしているかは知らない。
捜査一課が忙しい時には手伝ったりもしているみたいだけれども…普段は独自に動いているみたいだ。
そんな謎先輩である中田さんは、今日は朝からノートパソコンで動画を大きな背中を丸めて何度も視聴している。
「1995年8月28日 加藤一家三人殺人事件」の証拠と言われている例の動画だ。
4日ぐらい前からだろうか。各都道府県の警察署に頻繁にこの事件の電話がかかってくるようになった。
「加藤一家三人殺人事件の犯人が分かった」
「犯人の風間忠雄を捕まえろ!」
「警察は何してたんだ、無能が!」などなど。
それはもう多種多様な通報があった。日に日に通報件数が増えていくにつれて、困った警察庁が警視庁(東京警察本部)の我々「774課」に押し付けてきたという訳だ。
通報にあった「ヴェルギーナの門」サイトを見てみると…
高階位者カナメと名乗る者が未解決事件の犯人を断定するという
頭のイカれた内容だった。とてもまともな内容じゃない。
根拠もなく犯人扱いすればすぐに名誉棄損で訴えられて、サイトの開示請求→すぐに管理者逮捕という流れだろう。
普通だったならね。
しかし中田さんはこのサイトを初めてみた時から何か感じるものがあったのだろうか…「ヴェルギーナの門」サイトにじっと張り付いて真剣に食い入るように見つめるその横顔は…少し狂気じみてて怖かった。
ほんの少しだけね。
「こんな悪戯にいちいち警察が対応していられませんよね。」
と少し馬鹿にするように言ったのだが中田さんは
「いや、そうでもないぞ。俺は本物だと思うけどな。あくまでも俺の勘だけどな。」
とどこか嬉しそうに笑っていた。
中田さんの勘が当たったのはその2日後だった。
「ヴェルギーナの門」サイトでカナメが誹謗中傷を行った者に罰を与えると言ったのだ。
※※※注意事項★絶対に守るように※※※の項目の事は知ってはいたが、罰を与えるとは言っても口先だけのあくまでも誹謗中傷ダメ絶対という程度の注意喚起の文章なだけだと思っていたのだが…
本当に罰を与えられて病院に駆け込んだ人がいたそうだ。
報告を詳しく聞くと、誹謗中傷をして声が出なくなった者数名、風間忠雄の家に突撃したユーチューバー2人がいきなり目が見えなくなったと最寄りの病院へ、親や友達に付き添われて駆け込んできたらしい。
医師の検査によりサイトに書かれていた通りに、器官には全く異常がなかったそうだ。
さすがに鈍い自分でも、これはヤヴァイな…と感じ始めた。
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