第13話 風間忠雄③
子どもの頃、俺は周りの同級生達と違うと感じていた。
何でこんなに簡単な事が他の奴らは出来ないんだ?
何でこんな簡単な事が他の奴らには分からないんだ?
俺は特別な事は何もしていない。当たり前の事を当たり前にこなしているだけなのに
みんなが俺をすごいねと褒めてくれる。
両親や先生、周りの大人達も皆
「忠雄君はすごいね。」
と褒めてくれる。
褒めそやしてくれる度に俺の体中の隅々まで、喜びに満たされたようだった。
初めて感じた快楽だ。
その時俺は気づいたんだ。
これはみんなが悪いわけじゃない。
俺が特別だったんだ!と
中学、高校も地元では有名な進学校へと進んだ。
小学校の時とは違い愚鈍な同級生達は減ったが…
それでも俺は優秀だった。
優秀な奴らの集まりの中でも俺は優秀だった。
しかし小学校の時とは違い、そうは思ってはいても周りを見下さないフリをする社交性を身につけた。
学生時代は大人しく勉学に励み、そして優秀な俺は一流大学へと進学した。
大学生活はすごく楽しかった。
俺と同じレベルの優秀な者たちのグループに在籍していたので、
どんな話をしても、打てば響く受け答えに俺はとても心地良かった。
私生活もサークル活動やバイト生活、人並みに恋愛なんかも、
これから社会に出る前に必要な準備期間として大学生活は充実した毎日を過ごしていた。
この時の俺は…自分のこれからの輝かしい未来を信じて疑わなかった。
大学を卒業した後もこのまま、自分が歳を経てもずっとこのまま俺には輝かしい未来しかないのだ!
そう思って青春を謳歌していた。
そう、あの……戦後最悪のバブルがはじけるまでは…。
優秀な俺でさえ就職活動は苦戦した。
バブルがはじけて数年、一流大学を卒業するというのに俺にふさわしい大手企業にはどこも内定がもらえなかった。
内定をもらった会社は…どこも俺にふさわしくない二流どころの企業ばかり…。
俺はそんな二流の企業に入るぐらいならと、地元では有名な大手企業である坂本商事に就職した。
一流大学を卒業した俺は坂本商事では次世代の幹部候補として期待された。
同期入社した奴は俺よりも劣る大学出身のバカな奴らばかりだった。
そんな奴らを内心めちゃくちゃ見下しながらも、それなりに表面上はうまく付き合っていた。
何せ俺は幹部候補だ。将来こいつら愚鈍な奴らをコマとして使っていかなくてはいかないのだ、
仕事終わりに飲みに行ったり、仕事の相談や、時には恋愛の相談なんかもしてやった。
同期だけなく、先輩や課長、部長などの上の役職の方々にも気に入られるように、
上っ面を取り繕い、画策して過ごしていた。
しかし…そこである事件が起きた。
幹部候補として、24歳から売り上げ上位をキープしていた俺が初めて同期の奴に抜かれたのだ。
すごくショックだった。
もちろん、入社2年目の俺ではベテランの先輩達には売り上げはまだ叶わないのだが、いずれ追い抜いて
いずれは会社の名実ともにトップにつく予定だったのだが…
同期のそれも聞いたことが無いような三流大学を卒業したようなヤツに抜かれたのが
めちゃめちゃショックだった。
その男の名は木下勇樹。
俺が殺した男だ。
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