1-3 安達はるか、さらけだす

 安達はるかは起立して、顔馴染みのいない教室を見渡し、深呼吸をした。


「山岡中出身……趣味は、ぞ、……いえ、プラモ作りです」


 そう言いながら内心で、


(しまった!また見栄を張ってしまった……)


 顔をしかめた。


 本当は、ゾイド遊びが趣味なのだ。







 その時、言葉が詰まっている彼女に、担任が助け舟を出した。


「……おー。仲間がいて嬉しいな。俺はお戦車だが、安達さんは何を作るんだ」


 その言葉に、はるかは片目を薄く開けて、


(ありがとう……!この先生、ナイスアシスト!推せる!)


 一か八か、一度きりしかない高校生活を賭けて博打に出た。


(この新しい環境で、こんどこそ素の自分をだして正直に生きるんだ……!)




「──は、はい、その、……ぞ、……ゾイドを少々」



 だが、教室は静かなままで、彼女が恐れていた嘲笑や笑い声は上がらない。


 はるかは、カメのように首を恐る恐る出し、静かに目を開けて教室を見回した。


 クラスは、にこやかに彼女を見守っていた。



(これが私立の進学校なんだ……)


 誰一人として、女のゾイド遊びを笑う者は無い。


 はるかの顔が明るくなった。






 だが、目を上げた先に、壁際で縮こまる生徒の姿があった。

 黒い髪を垂らし、机の下で手を握りしめ、震えている。


(え……?あの子……)


 それが、肩と髪の先まで伝わっているように見える。







 あたたかい拍手の中、着席した安達はるかには、それでも微笑みが湧いてくる。


 中学では、生まれ育った人間関係がそのまま繰り上がっただけで、高校はそんな自分を知らない新しい環境に置きたくて、この春日学園高等部に越境進学した。


(緊張したけど。勇気出して結果良かったな……)


 後悔の反対側に位置する報酬のようなものが、じんわりと手脚に満ちている。







 だが、壁際に目を向けると、黒いオーラを立てている女子生徒の手は、まだ机の下で固く握られている。俯いた髪の中に隠れた白い顔が硬直している。


 はるかのまぶたに、中学時代の自分がよぎって見えた。


(ああして、私も三年間、机の下で両手を握っていたっけ。誰も……声かけてくれなかったけど……)



 きっと天然な、彼女の艶やかでストレートな髪も、あんなにうつむいてしまっていては酷くもったいないように思えた。

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