初日 月曜日

1-1 ひきこもり、姉の自己紹介をする

 春日高校入学式の日。


 ニートの上杉 丸(♂)は、晴れて双子の姉・みすみのブレザーとスカートに手足を通しているのだが、


 担任の下前田 章は、まさか生徒が入れ替わっているとは思っておらず、黒板に自己紹介と大書きして振り返った。


「じゃ名簿順に自己紹介してくれ。まず、安達はるかさん」




「はい」そう席から立った女子生徒は、


「山岡中出身、趣味はプラモ作りです」


「おー。先生も戦車の模型はやるぞ。安達さんはなに作るんだ」


「はい、ゾイドです」


「そっかあ、先生……ゾイドはやったことないなあ……」


 そう朗らかに自己紹介をおえて、拍手をあびた。

 

「次、伊藤大吾くん」


「はい」


 しかし、廊下側中央の席では丸が、うつむいて髪の中にかくした蒼白の顔面に冷や汗を浮かべている。


(おちつけ、丸。いや、上杉みすみ、昨日は一晩中ボイトレ動画をみて女声を訓練したじゃないか……大丈夫だ、そのせいで今朝はデスボイス。低すぎて逆に女声どころか人間離れしてる……。いけるぞ、逆に行ける。おのれの喉に祈れ……)





「次、井上真一くん」


「はい」


 立ち上がった長身の男子生徒の名に、丸は顔を上げた。


(あれ……)


 生徒の横顔は、小学校のとき同級生だった少年の面影を残している。


(たしかシンイチ、旭中にいったんだよな。でもまさかこんな県外の高校に……)


 しかし、その生徒は、


「旭中出身、趣味は勉強と花を愛でることです」


 やはり、シンイチだ。嘘をつくと右の眉毛がピクつく。



 拍手が上がる中、丸も机の下で拍手をしながら壁向きに伏して白目で号泣している。


(さっそく知ってるやつが同級生じゃねえか……!! 声バレなんてレベルじゃねえ、もう普通に顔でばれるって! 無理ゲーでしょお!!!)

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