0-3 ひきこもり、女装する

 すかさず母が、双子の姉・みすみの髪型をした引きこもり息子の背中を「まあまあ〜、次はこっちよ〜」と、和室へ押し込むや否や、


「はいこれ。着てみて」


 春日学園高等部の制服を、差し出した。


 だがそれは、


「──母ちゃんこれ女子のブレザーじゃんかよおぉぉーーー!!」


 絶叫して丸は天を仰ぐ。






 しかし母は口に手を当て、何をこの子は大げさなと笑い、


「やだもぅ、大丈夫よォ、あんた、姉ちゃんと背丈いっしょじゃないのぉ。破れたりしないから平気だって〜!」


「生地の問題じゃねえーーー!!!」


 丸はセミロングの頭を抱え、


「おれの人権とか、尊厳とか、そう言う我が子の自己決定権を親が尊重するのは当然として、──なんで高校合格した本人より先に、ニートのおれが姉ちゃんの制服を着るんだよ!?」


 ぶん殴られるのはおれなんだぞ、と泣きかけた瞬間、小柄な丸の顔の横に、姉の映ったスマホの通話画面が差し入れられ、


 父が、あらためるように咳払いをひとつした。


「──丸。欲しがってたiPhoneの最新型、家族割が効くらしいぞ」


 そう耳打ちし、そっと彼の手に、そのスマホを握らせた。


 丸は手にした画面の姉と、母が差し出す制服を見比べ、


「え、……じゃあ、条件って、」


 すると、スマホの中から姉の声がした。


「──そうなのよ、悪いわね、丸。あたしちょっとだけ帰国が遅れそうでさ、代わりにガッコ行ってほしいんだ、たのむ!一週間だけでいいから……!」


 怯えながらも画面を覗くとそこには──


 昨日、羽田に帰国予定だった双子の姉・みすみが、アラスカの吹雪を背景に謝るような手刀を立てて、笑ってごまかし自撮りしながら映っていた。


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