魔女と聖獣と公爵様の毒殺

第6話

 王宮に着いて早々、皆が別行動をすると思っていた。

 叔父はあちこち挨拶回りをしているし、叔母は婦人達と談笑、リーナは婚約者がいるのにも関わらず、意中の男がいるようで追いかけまわしているようだ。


 誰だったかな……ミハエル……いや、ミ…………なんだったか?


 名前は一度聞いたはずだが、薄っすらとしか出てこない。

 リーナはロマーニオに自分を売り込むよう懇願していたが、家格が上過ぎるし、婚約者がいる身でそれは難しいと断られてからは自分でアピールする作戦を選んだらしい。


 エスティラとしては派手に失恋することを願うのみ。


 人から婚約者を奪っておいて他の男に熱を上げている状況は癪に障る。

 そんなことを考えていると国王と王妃が手を取り合い、会場に入場する。

 中央を優雅に歩き、玉座に座った二人は若く、今の若き王が玉座についたのは四年前だ。

 侯爵家の令嬢、ライラ・リストンを王妃に迎え、翌年王子が誕生した。


 仲睦まじい雰囲気の若き国王と王妃に多くの視線が注がれる中、二人に負けずに多くの視線を集める者達がいる。



「まぁ、聖獣がいるわ」

「聖獣が現れる宴だなって。素敵なことが起こりそうだわ」


 天井を見上げると小さな黒い竜と鷲が飛んでいた。

 聖獣は幸運の象徴とされ、見かければ幸運が訪れるとされている。

 しかし、エスティラはその説には懐疑的だ。


『はぁ~。人間ってバカだよな』


『そう言うな。人間にとっては相手の顔色を見ながら飯を食い、腹の内を探りながら手を取り合って踊るこの宴がささやかな人生の楽しみなんだろう。我ら聖獣には理解できんが』


『おい、見ろよ。俺達を見て幸運と加護を欲しがってるぞ。その羽でもくれてやれば?』


『貴様、儂の羽をなんだと思ってるんだ。人間なんぞにそうやすやすとくれてやれるものじゃない』


『糞でも喜ぶのか試してみたいな』


『なら貴様が出せ。儂はこのような所で排泄はせん』


 これが聖獣達の会話だ。


 人間を舐めてるわね。


 こんな会話をする聖獣に幸運を期待する人間の愚かなことよ。


 聖獣達は人間を決して襲わないが、懐きもしない。

 懐かない理由も人間を見下しているから。


 うちの周りにいる動物達は性格の良い子ばかりなんだなと改めて思う。

 エスティラにとっては動物も聖獣も人間も同じように言葉が聞こえる。

 人間と大して違わないわね。


 こんな低俗な会話を聞いてしまえば聖獣に対する信仰心も失せる。

 特別大きな期待はできない。

 ちらりと鷲がこちらを見た気がするがおそらく気のせいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る