第5話
「遅いのよ! 私達を待たせるなんて、何様のつもりなの⁉」
リーナを無視してエスティラはロマーニオに向き合う。
「お待たせして申し訳ありません」
エスティラが謝罪をするとリーナとセザンヌが睨みつける。
「ふん、まあいいだろう」
「子爵家の者ならこれぐらいはしてもらわないと」
そう言ったのはウォレストだ。
ロマーニオから何も咎められなかったことにほっとする。
久しぶりに新調したドレスとウォレストから贈られたらしいネックレスとピアスに髪飾りは割に似合っていると思う。
「……っ!」
叔父に咎められなかったことが気に入らないのかリーナはエスティラを睨みつける。
「こんな奴を連れて行くなんて信じられないっ!」
「こんな人でももしかしたら運良く誰かの目に留まるかもしれないだろ? 物好きな御仁の後妻か愛人辺りが妥当だろうけど」
怒るリーナをウォレストが宥める。
ロマーニオがエスティラを連れて行くのはそっちが狙いなのだ。
「そうね、いくら魔女でも嫁ぎ先がないのは可哀想だもの。お父様、早くエスティラの結婚相手を探してあげてください。貰ってくれるなら誰でも良いでしょう? 私にはリュドスがいるけど」
はぁ?
勝ち誇ったように言うリーナにエスティラはこめかみに青筋を浮かべる。
リュドスとはエスティラの元婚約者の名前である。
幼い頃に祖父同士が取り決めた婚約だったか、エスティラはリュドスを慕っていた。
けれどもリュドスはロマーニオの勧めでエスティラとの婚約を簡単に破棄し、リーナと婚約を結び直したのである。
奪った男の名前を口にしてこれ見よがしに優越感に浸るリーナのことは無視するに限るわ。
エスティラはムカムカする胸を深呼吸を繰り返して落ち着ける。
「そうだな。結婚相手のことも真剣に考えなくてはな」
はぁ?
人の婚約者を奪っておいて何言ってんのよ?
ロマーニオの言葉にエスティラは心の中で呟く。
あんたが勝手なことしなきゃ、私の嫁入り先は決まっていたのに。
それに親でもないあんたに何で結婚相手を選ばれなきゃならないわけ?
でも結婚してストレスの根源と離れられるならそれもアリかも。
でも気持ち悪い変態の所はちょっとな……。
いっそのこと、働きに出るのはどうかしら。
住み込みの所が良いわね。
大変でもご飯がしっかり食べれて、、雨風凌げる所がいい。
それなりの待遇を期待するならどこかの家庭教師か貴族の邸の使用人辺りになる。
紹介状がないとどちらも厳しいわね。
誰か私を住み込みで雇ってくれないかしらね。できればいい待遇で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。