第4話
「こんな素敵なドレス、勿体ないわ」
一人のメイドの言葉に、エスティラに対しての敬意はない。
舞踏会の日はあっと言う間にやって来て、ロマーニオから命じられたメイド達がエスティラの身支度を手伝うために部屋へやって来た。
しかしメイドは支度を手伝おうとせず、ただドレスや宝石を眺めているだけ。
「旦那様もウォレスト様もどうしちゃったのかしら。エスティラお嬢様にこんな素敵なドレスを買うなんて」
「見て、このネックレス。ウォレスト様が持ってきたのよ」
しまいにはアクセサリーを自分達で鏡の前で合わせて遊び始めた。
はぁっとエスティラは大きな溜息をつく。
だから嫌だったのよ、舞踏会なんて。
まだ支度すらしていないというのに、もう嫌だ。
「あなた達、名前は?」
いつまで経っても仕事を始めないエスティラはしびれを切らし、仕方なく口を開いた。
「は?」
「聞こえないのかしら。名前を教えろって言ってるのよ」
エスティラを鼻で笑い、名前なんて聞いてどうするのよ、と言う。
「あなた達が仕事をしなかったせいで支度が遅れたって言うわ」
「………………」
そう言うとメイド達は黙って顔を見合わせる。
「私が駄々をこねて支度が遅れたと報告しても、結局は私の支度を済ませられなかったあなた達の責任なのよ。私を悪者にしたとしてもあなた達は三人も世人もいて私一人の身支度すらさせられない役立たず。舞踏会に遅れて家門に泥を塗る原因になったあなた達が今まで通りにこの邸で働けると思ってるのかしら?」
エスティラの言葉にメイド達は顔を青くして硬直する。
「リーナの引き立て役にしようとしてるのかもしれないけど、あんまりみすぼらしく着飾ればそれだけ家門を貶めることになるわよ。王宮への就職が決まっているウォレストは怒るでしょうね。勿論、叔父様も」
父が亡くなり、少し経つと叔父夫婦とリーナの浪費で経営してた会社をいくつも失った。
どこも父が大切にしていた会社だったが売りに出し、その権利ごと手放すことになった。
一時的に経済状況が悪くなったが、ここ最近は以前のように叔父たちの遊び方が派手になっているのを見ると多少は良くなったのかもしれない。
邸の母屋を改装し、家具や調度品を買い替え、叔母もリーナもドレスやアクセサリーも沢山買いそろえていた。
私は装飾品どころか食器の一つも新しくならないけどね。
古くなった家具や邪魔になったものは離れに追いやっている。
おじい様とおばあ様がよく過ごしてた離れの二階は夕焼けと眼下に城がる庭が美しい素敵な場所だったが今は物置小屋のようになってしまった。
金回りが良いはずのロマーニオの姪があまりにもみすぼらしいと悪い意味で噂になる。
「私は流行には疎いし、身支度をしたあなた達に怒りの矛先は向かうでしょうね」
身支度に手を抜くな、と遠回しに言えば、メイド達はおずおずと手を動かし始めた。
「お手伝い致します」
「ええ。お願いね」
硬い表情のメイドに笑顔で答えた。
肌を整え、化粧をし、ドレスを着て最後は髪だ。
「あら、あなたとても上手ね」
「へ……いえ……これぐらい普通です」
エスティラの髪に櫛を入れ。香油で艶を出し、品良くまとめて飾りを付けるまでの手際がとてもいい。
しかし、それを褒めるとメイドは呆然とする。
「ありがとう、とても素敵だわ」
身支度を終えて玄関へ向かうとエスティラが最後だった。
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