第3話
幼い頃からエスティラには動物や聖獣の言葉が聞こえていた。
亡くなった両親はエスティラの不思議な力を『聖獣の加護だ』と言って喜んだが、他の人には決して話してはいけないと口を酸っぱくして言われてきた。
『聖獣の加護』と言いながらも、他人にはそのことをひた隠しにしていたところを見ると、気味悪がっていたに違いない。
元々人見知りな性格な上に、この容姿のせいで友人らしい友人がおらず、話し相手といえば動物達だけだった。
動物達だけはエスティラと話をしてくれるので動物達がいればさほど寂しくなかったが、彼らがいなければきっと孤独死していたに違いない。
それにしてもお腹空いた。
結局、ほとんど食べられなかったものね。
この日当たりの悪い部屋に追いやられてからは食生活も大きく変わった。
使用人と変わらない質素な食事だったらまだ良かった。
運ばれてくるのは冷めたスープとパンのみ。
今日のようにエスティラが家族と食事をとることはほとんどなく、ごくごく稀に今日のように大事な話がある時だけ呼ばれる。
まともな食事にありつけるチャンスなのだがそれすらも出来なかった失望は大きい。
エスティラが空腹をどう紛らわそうか考えているとコンコンコンっと部屋のドアがノックされる。
この部屋には誰も来ない。
来たとしてもろくでもないことが起こるだけだ。
一体誰かしら?
エスティラは無言でドアに向かい、ドアを開ける。
そこには誰もおらず、代わりに床にバスケットが置いてあった。
「何?」
バスケットの中には具沢山のサンドイッチに果物、マカロン、そしてオレンジジュースが入っていた。
「わぁ……美味しそう……だけど……」
一体、誰がこれを持ってきたのだろう。
エスティラの世話を使用人がしなくなって随分経つ。
こんな風に美味しそうな食事を届けてくれる人に心当たりがない。
まさかと思うが。
「…………毒でも入ってるんじゃないでしょうね?」
以前、リーナから『たまには一緒にお茶でも飲もう』と誘われて飲んだお茶に腹痛を引き起こす毒が入っていた。
それ以降、食べ物を貰う時はかなり警戒している。
『入ってない、入ってない』
警戒するエスティラの周りを小鳥が飛び回る。
「本当?」
『大丈夫、入ってない』
『美味しいやつ、食べても大丈夫』
「そう……じゃあ、一緒に食べましょう」
『わーい』
『わーい! ご馳走だ!』
嬉しそうにはしゃぐ小鳥たちにエスティラはクスっと笑みを零す。
誰だかは知らないが久々に食事らしい食事ができることに感謝した。
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