第6話:学園祭で起きた事故

 母校の軽音部は、細身の長身ロン毛男子が多かった。

 部員の大半は美術学部の生徒で、何故か音楽学部の生徒はいない。

 学園祭では、野外ステージで自作の曲を披露する軽音部が人目を引く存在となる。

 事故は、軽音部所属バンド3年生グループのステージ中に起きた。


「お前ら〜! ○○(バンド名)が好きか?」


 演奏の合間のトークタイム、ボーカルのヒデさんがマイク片手に観客に呼びかけた。

 観客の生徒たちのうち、バンドのファンや軽音部のメンバーがヘッドバンキングでそれに応える。


「お前ら〜! 俺が好きか?」


 ヒデさんが、またステージ上から問いかけた。

 ファンや部員たちがヘッドバンキングで応える。


「お前ら〜! ヤスが好きか?」


 また問うヒデさんに、またヘッドバンキングする人々。

 ギターのソロ演奏で「ありがとう」的な表現をするヤスさん。


「俺も好きだぜ」


 と言うヒデさんは、ソロ演奏が済んだヤスさんの首に腕を回して引き寄せた。

 キャー! と声を上げる女性陣の前で、ヒデさんはヤスさんの唇を奪うフリをする。


 ……筈だった。


 ギリギリ接近で止めるところを、距離のとりかたをミスったヒデさん、ヤスさんと接吻。


「「!!!」」


 慌てて離れてそれぞれ口を片手で覆うロン毛のイケメン2人。

 女性陣から、ひときわ大きな黄色い声が上がった。


 やっちまいましたね、先輩たち。


 本人たちはゲイではない。

 それぞれ彼女がいる。

 彼女たちも見てたけど、事故だと分かってるから爆笑していたよ。


 以来、学園内の腐女子の間で、ヒデさんヤスさんカップル説が広まったという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る