7:お望み通りにしてやるよ
「ちょっといいパソコン買っちゃおうと思う」
「私も欲しいです!」
休日、あまりにも暇すぎる俺は、女神にそう打ち明けた。
女神は即座に賛同を示してくれた。
「じゃあ行くか!」
「行きましょう! でもどこへ?」
「ケイズデンキ!」
SNSで絡みのある人がケイズで一体型のパソコンを買って、愛用しているという話をしていた。確かに一体型ならコンパクトで場所も取らないし、見栄えもいい。なんかおしゃれな感じがする。
確か20万くらいするとか言っていたが、俺には最近、その十五倍くらいの臨時収入があった。
オークション手数料だとか、未来に税金として消えていく分はまあ今は考えず、このさい、思いっきって、有意義に使ってしまおうと思う。
いいパソコンでゲームとかしちゃうのだ。
「――やめときな。素人が」
「なに?」
声がする。背後のドアの奥。俺の寝室からだ。
俺の寝室にはたびたび、知らない人が突然に現れる。
あとなんか真っ白になってる。真っ白な空間にベッドが浮いているようにぽつんとあるのみ。
真っ白になる前は、ポスターとか、それこそパソコンとか、置いてあったのに、ベッド以外は全て真っ白に消滅した。
人が現れるのも、真っ白なのも、全て俺の目の前にいる女神の仕業なわけなのだが、それはともかく……。
「なんだよ、藪から棒に」
ドアを開けて白い空間を覗き込むと、ぽっちゃり系のメガネ男がいた。話を聞けば、どうも、俺のパソコン購入に異を唱えているようだ。
初対面なのに、ずうずうしい奴だと思った。
「ケイズでパソコンを買うのはオススメしませんぞ? むろん、それはどこの家電量販店でも同じようなことが言えますがな……!」
「なに? どういうことだ?」
「ふふん、お答えしましょう」
ぽっちゃりメガネは、早口でパソコンについてあれやこれやを説明してくれた。
量販店の販売傾向とか、実際に買ったレビューも詳しく載っている掲示板なんかも教えてくれて、マザボとかSSDとかグラフィックなんとか……よくわからんが、なんか彼が言う話はとても説得力があり、聞き入ってしまった。
そして決定的な話……。
「そんなにパソコンが欲しいなら、差し上げましょうか? われのハイスペックマシーン……! 異世界に行くわれにはもはや不要のものゆえ……!」
「うおおお! マジか!?」
「うむ。住所は……の天清アパート302号である。鍵かけてないゆえ、勝手に入って持って行きなされ」
ぽっちゃりメガネ紳士の一声により、俺はパソコン購入を断念し、代わりに、他人のアパートからパソコンを拝借することにしたのだった。
こりゃあ、もう……俺も誠心誠意、お返ししなきゃな。
「女神。こいつには、とびっきりのチートを授けてやってくれ」
「もちろんです! 【俺だけ世界をサンドボックス型ゲームみたいに作り変えられる】チートを授けましょう!」
チート能力がパソコンゲームに引っ張られてる気がするが、まあ普通に便利そうだしいいだろう。
それから……。
「……来世は容姿ももうちょいイケメンにして差し上げろ」
「なるほど。スティーブよりもアレックスって感じですね?」
「いやその例えは知らんが、よろしく頼む」
こうしてまた一人、勇者が旅立った。異世界でトラップタワーとか作ってそう。
ま、それじゃあ俺らは、故人のパソコンを引き取りに行くとしますか。
「それにしてもあいつの住所、ちょっと長旅になるなあ。レンタカー借りるか。……女神様もいらっしゃいますか?」
「無論です! お出かけしたい!」
コンビニで食糧買い漁って、冷房ガンガンにかけて、俺と女神は思いがけないドライブデートへと向かった。
「あ、ちょっとあそこで休憩しませんか♡」
妙に派手な外観のホテルを見つけるたびに、女神はニヤニヤとそう言ってくるのだった。
おう。パソコン引き取ったらお望み通りにしてやるよ。
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