6:イーブンな勝負

「ええ……異世界金貨、アホみたいな金額で落札されとる……」


 以前から、異世界amaz○nのチート能力を与えられた勇者が、俺にネット通販の代理を頼む構図がある。ようは俺の金で購入した商品を異世界に転送して、その代わりに異世界の通貨が俺の手元に送られているだけなのだが、俺には金貨の使い道がないために、ただただ浪費の一途を辿るはめになっていたわけだ。


 だが遊び半分で、ネットのオークションサイトで適当に売り出していたところ、それがどこぞのマニアの心をくすぐったようだ。


「一枚300万円……嘘やん……あわわ……」


 ――なお、近いうちに、異世界amaz○nのチート能力勇者が数千万単位の買い物をポンポンとするようになっててんやわんやすることになるのは、また別のお話である。




 ──そんなわけで、スーパーへ向かう道すがら、隣の女神に愚痴を吐く。


「個人事業主として、お国に申告しないと、脱税で逮捕されちゃう」


「あらあら、大変ですね。今日はカニクリームコロッケが食べたいですっ」


「相づち下手くそすぎない?」


 嘘でもいいからもっと労れない?

 こちとら、会社にも副業バレる前に報告しとかないとだし、金貨もまだ100枚以上あるから、節税考えて売るタイミングとか数とか見計らわないとだし……。


 今度、部長に相談してみよう。

 今は慣れないことに頭働かせたら腹が減っているのだ。仕事終わりのこの時間は、行きつけのスーパーでは、惣菜やら弁当やらに半額シールが貼られるタイミングである。


 いつもは買い出しは一人で行くのだが、今回は女神も行きたいと言ってきたので、連れてきた。今みたいに、自分が食べたいものをねだる作戦のようだ。


 だが、俺にはそれ以前の懸念がある……。

 本人はこれでいいというから、もう俺から何も言うことはないのだが……格好が……。


「あー、君たち。ちょっと止まりなさい」


 呼び止められて、振り向くと、青い制服に青い帽子。そして、旭日の紋章が金色に輝くおじさん二名がそこにはいた。

 通称、お巡りさんと呼ばれる人たちである。


 なぜお巡りさんに呼び止められたのか。

 俺には皆目見当がついている。

 なのですぐに反論した。お巡りさん、違います!


「俺は無関係なので、職質はその痴女だけにしてください」


「抱き枕くん!?」


 俺が即座に見捨てたので、慌てた様子で助けを求める女神様。やめろ。俺まで仲間だと思われるだろ。

 だから言ったよね?

 服着ろって。


 絹よりも薄いスケスケのローブを羽織っただけで、その内側に隠れるはずの肌がモロ見えなのだ。セクシーな桃色髪も目を引くし、この事態は然るべきである。


「いや、お兄さんからもお話聞きたいから、行かないで行かないで」


「はい……」


 結局俺まで巻き添えとなった。

 しぶしぶ女神と隣合わせになって、お巡りさんの尋問を受ける。


「君たちぃ、何してんの。それ、服として機能してないの、わかるよねえ?」


 俺はもちろんわかる。


「わかりません!」


 だが女神は分からなかった。

 困り顔のお巡りさんは、そんなことを言う女神を上から下まで舐めるように眺めて、はあ、とため息を吐く。

 このまま署までご同行願われるかと思いきや、女神は続けて言葉を返した。


「むしろなにがいけないのか、ご説明いただけませんか?」


「は? イヤ何って……スケスケでしょ!? 見えちゃいけないとこまで見えちゃうでしょ!?」


「はて? 『見えちゃいけないとこ』とは?」


「イヤだからねぇ。それを言わせてセクハラだとか言って乗り切るつもりか何かしらないけど、無駄だから! 完全にアウトなの! わかる?」


「……私としたことが、質問のし方が悪かったですね。もう一度お尋ねします。私の服装、『見えちゃいけないとこが見えて』いますか?」


「はあ!? 何を言って……!」


 怪訝な顔で女神と押し問答を繰り広げていたお巡りさんは、女神の問に今一度応えるべく、その美貌を上から下まで舐めるように眺めた。

 そして、やっとお巡りさんは、女神の服装の不思議な事態に気付くのだった。


「な、なにいいい!? これは!? み……見えない!? うまい具合に服の折れ目が重なって、ちょ~ど良い感じに恥部が隠れているぞ!?」


「ふふふ。乳房は魅せても恥部は見せるな……! 神が作りしこの服の構造は、どのような角度、どのような体勢、姿勢、ポーズをとっても、決してピンク色は見せないようになっているのです!」


「ピンク色言うな」


 そうなんだよ。だから俺も、同行を許したわけで。

 職質はされるだろうが、捕まるかどうかはイーブンだったんだよなあ、この服。

 そして今回、お巡りさんは、恥部が見えなきゃ捕まえようがないということで、見逃してくれたのだった。


 俺は一回捕まえて反省させた方がよかったと思う。

 その日は勝利のカニクリームコロッケを笑顔で味わい、腕枕で寝た。

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