5:まったくこれだから○○は

「え、誰ですかその女性ひと


 自宅アパートのチャイムを押して、女神に出迎えてもらう。

 はいはーい。と軽快な返事のあとにすぐさまドアが開かれると、桃色髪の女神が、透け透けの白いローブだけを身にまとった姿で、ニコリと笑いかけててきた。

 ……そして間もなく、きょとんと硬直した。

 先の言葉はその時に、俺が背負う人物を指差して出たものだった。


「俺の上司。打ち上げで飲みすぎたっぽいから、連れてきた」


 今日は俺が、大手と契約を交わしてきた祝賀会として、部署内のみんなで飲んでいたのだ。そしてめったに褒めることも笑うこともなかった部長が、めちゃくちゃ上機嫌で飲みまくった結果、こうなった。


 鬼の女部長、鬼塚春子。

 今日はテンションが高くて何でも上機嫌に語ったいた話を聞けば、未婚で彼氏なしで、学生時代はモデルをやっていたそうだ。驚くよりも、納得していた自分がいた。……納得はモデルの話のほうだよ?


 しかし、たまたま俺の最寄り駅付近で飲んでいたので、俺が預かるところとなったわけだが、もし俺のアパートに女神が居候なんてしてなかったら……俺は、理性を保っていれただろうか?


「わ、わ、抱き枕くんが酔った女性を連れ込もうとしてます! ダメですからね! さすがに一般人を転生の間に連れ込むのはダメですからねっ!」


 いや転生の間って……。俺の寝室なんすけど……。

 まあ、こんな女神がいてくれて、一線を踏み越えようなどと思えなくさせてくれるのだから、今はありがたい。


「絶対にだめですからね!」


「わかったから早く家ん中入れてくれよ」


「まったく! これだから人間は! まったく!」


 何怒ってんだこの女神は……。

 もしかして、やきもち……? いやまさかな……? いや、あり得る……? あくまで抱き枕としての利用価値としてのやきもち……。いやでも、おっぱいとか揉んでるし……いやしかし……いやまさか……。


 悶々としながら部屋に入る。


「あ、こんばんは。お邪魔してます〜」


 部屋にいる見知らぬ美女に、開口一番で挨拶されて、固まってしまう。青空のように爽やかな髪色をした可愛げのある顔立ちの美女だ。

 そんな不法侵入者に見とれていると、女神が、当たり前のように、その子を紹介した。


「あ、彼女は私の友達。神友神友」


「……いや、居候してる身で俺の知らん奴を勝手に招待すんな!? めちゃくちゃビビったわ!」


「ね。ビビるくらい可愛いでしょ」


「そうだけど今はその話じゃないから! そうだけど!」


 それにこの空色髪の女神もよく居座れるな!? ここ、人んち! 普通来ないだろ! 遠慮して! 先輩風吹かされて無理やりやってきたとしても、もっと謙虚になってなきゃだめだろ!

 なんで漫画読み漁ってんの!?


「まったく! これだから女神は! まったく!」


「うるさいわね……あんたがセンパイに変なチート提案したせいで、私が転生者と一緒に異世界に行くことになったんだからね! まったく! これだから人間は! まったく!」


 ……なぬ?

 俺がチートを提案した……ことは、何回かあるが……ああ! そういえば転生者にストレスを与えるために、女神も同行しないとダメだって言ったことあるな。【必ずオマケがついてくる】チート能力だったっけ。


「まあまあ、二人とも落ち着いてください。抱き枕くんもほら、女の子を怒鳴っちゃだめです。それから、ヘスティアクアちゃん。私の抱き枕くんに不躾な態度はとらないでください」


 諸悪の根源が仲裁しやがる。

 空色髪の女神であるヘスティアクアも、なぜかそれを渋々といったように受け入れていた。なんでだよ。


「あ、というか、ヘスティアクア様がここにいるってことは、あの時の転生者はどうなったんだ? 魔王を倒すか死んだかしたのか?」


「どっちも違うわ。でもあの子、めちゃくちゃ充実した日々を過ごしてるわよ」


「へえ、どんな?」


「まず最初に、勇者として王様から剣を貰う場面でチ-トが発動して、オマケで王位も貰ってたわ。そこから彼の自堕落人生が始まったというわけね」


「意味わからんが」


 オマケチートが最強すぎる……。

 ヘスティアクアの話を聞けば、もうハチャメチャな用法まで確立させているらしく、俺はいつしか、異世界冒険譚を前のめりになって聞き入ってしまっていた。


「……はー、すごいな。俺もなんだか、異世界行ってみてえよ」


「じゃあまずはトラックに轢かれてからだねえ」


「絶対嫌なんだよなあ」


 二人して笑いあう。なんやかんやヘスティアクアとは仲良くなった。彼女もこれまでに溜まった鬱憤を、愚痴と言う形で吐き出せてスッキリしたようだ。


「……あ、お話、おわりましたかあ?」


 そんな俺たちに話しかける声。桃色髪の透け透けローブを着た痴女だ。

 一人だけ、いや一柱だけ置いてけぼりにされて、スネてしまっているようだった。

 すまんすまんと言いながら彼女を振り向けば、女神は、鬼の女部長、鬼塚春子に膝枕をしていた。


 膝枕をしながら、自分のおっぱいを部長に吸わせていた。

 なんでだよ。


「ふふふ、ヘスティアクアちゃん、私の抱き枕くんとなに楽しくお喋りしてるんですか? 寝取る気ですか? いいですよ、だったら私も、この子に寝取られますからね! 抱き枕くん! いいですね!? ほらおっぱいこんなに吸ってるよこの子! ほらぁ!」


 俺はその光景を目に焼き付けてから、無言で寝室へと向かった。

 ヘスティアクアの手を引いて。


「え? え? え?」


と顔を赤くしながらも抵抗せずについてくるヘスティアクアが最高に可愛かった。女神がガ-ンといった表情でそれを見送りつつ、部長におっぱいを吸われ続けていた。

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