第5話 冒険者ギルドにトラブルは付きものみたいですわ!


「すやすやですわ……はっ!今何時ですの!?」


 わたくしは部屋に備え付けの掛け時計を見ましたわ。そして、この世界の時間というものが前の世界と同じであることを心から恨みましたわ。


「大変ですわ、もうこんな時間ですの!?完全にお寝坊ですわ!」


 私は急いで外出の準備を始めましたわ。今日は異世界での初お仕事の日であるというのに、腑抜けていましたわ。


「【お優雅】さんも酷いですわ、今日ぐらい起こしてくださっても……っと、そうでしたわね、今日からは【お優雅】さんに頼りきりではだめでしたわ!」


 外出の準備を終えた私は部屋を飛び出しましたわ。ですが、時間はもうすぐお昼であるというのにまだ朝ごはんすら食べていない私のお腹は限界寸前でしたの。私は逸る気持ちを抑えて、宿屋の食堂に向かいましたわ。


 そして、お腹も満たされ完全に準備が整った私は、異世界での初めてのお仕事を求めて、冒険者ギルドに向かったのですわ。



◆◇◆



 冒険者ギルドに到着した私は、早速お仕事探しを始めましたわ。冒険者へのお仕事の依頼は掲示板に貼られていて、自分が受けたいお仕事の依頼書を掲示板からひっぺがし窓口へ持っていくことで、そのお仕事の受注が完了しますわ。


『まずいですわ!もうお仕事の依頼書が二つしか残っていませんわ!』


 冒険者へのお仕事の依頼は有限、そしてお仕事の受注は早い者勝ちなのですわ。


 朝八時から営業している冒険者ギルドでは、お寝坊さんにお仕事を選ぶ権利などなかったのですわ!



 掲示板の周りには私以外にも冒険者がいましたわ。そして、その中の一人が一枚の依頼書をひっぺがしましたわ。


『やばいですわ!このままだと今日一日のお仕事がなくなってしまいますわ!もう内容なんて何でもいいですわ!』



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ◆ユニークスキル:【お優雅】を発動します。


 ◆対象:ソフィア・ユグレシア

 

【依頼書を取るまでの間、俊敏のステータス値が上昇し、全ての動きがお優雅になる。】


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 すると、ユニークスキル:【お優雅】が発動しましたわ!どうやら、私は心の中で今の自分の状況がお優雅ではないと強く思ったようですわ。思い返すと、今日は朝から全くお優雅ではありませんでしたわ。


 私はユニークスキル:【お優雅】の効果で、とてもお優雅且つ恐ろしく早い動きで最後の依頼書をひっぺがし、その依頼書を掲げて叫びましたわ!


「お仕事をゲットしましたわ!これで私のお優雅ライフは一歩前進しましたわ!」


 つい人前で叫んでしまい、周りからの視線がとても痛いですわ。でも、今はそんな事どうでもいいですわ、私は初のお仕事で気分が高まっているのですわ!


 そして、私はお仕事を正式に受注するために窓口へ向かいましたわ。



 冒険者ギルドの窓口には、昨日私が冒険者登録をしたときに対応してくださった受付嬢さんがいらっしゃいましたわ。


「こんにちは!あっ、ソフィアさんじゃないですか!早速お仕事をなされるんですか?」


「勿論ですわ!そのために冒険者登録をしたのですわ!これが今回私が受けようと思っているお仕事の依頼書ですわ!」


「まあ、それもそうですよね、愚問でしたね!ではソフィアさん、依頼書を確認させていただきますね。……ソフィアさん、大変申し上げにくいのですが、この依頼はソフィアさんには少し荷が重いかもしれません。よろしければ、別の依頼を受けた方がよろしいかと……」


 あら、そんなに難しいお仕事の依頼だったのですね。確かに、掲示板の周りにいた冒険者たちもこのお仕事を受けようか悩んでいたご様子でしたが、誰も受注しようとしていませんでしたわね。でも、それは困りましたわね、もう残っているお仕事はこの依頼しかありませんのに……


「私では力不足ということですの?」


「いえ、力不足というか力を存じ上げてないというか……」


 どっちつかずな回答に私は少し困惑しましたが、昨日【お優雅】さんにステータスの確認をすっ飛ばしたのを咎められたことを思い出し、申し訳ないなと思いましたわ。


「では、私のステータスを見て頂いて、このお仕事を達成することができそうかご判断して頂きたいですわ!」


「分かりました!では、今水晶の準備を致しますね!」


 そう告げた受付嬢さんは、私のステータスを見るために水晶の準備を始めましたわ。ですが、その準備の途中に後ろに並んでいた二人組の冒険者に絡まれてしまいましたわ。



「おい姉ちゃん!新人かい?新人が一人で依頼を受けるなんて危ねーなー!そうだ、俺たちも一緒に姉ちゃんが受注しようとしてる依頼を受けてやるよ!何、心配はいらねー、何せ俺様たちは超つえーからな!」


「そうでやんすよ!一人よりも三人の方が効率がいいでやんす!それに、姉さんみたいな美人さんが一人でいたら、襲われちまいますぜ!」


 何だか如何にもな方々に絡まれてしまいましたわ。こういう時は事を荒立てないように、丁重にお断りするのがお優雅ですわ。そう考えていたんですのに……



「おい、またあなたたちなの!何度言ったら分かるんですか?そんな下心丸見えな誘い方でおいそれとついていく女性なんているわけないでしょうが!あと、あなたたち気持ち悪いんですよ。依頼の受注が終わったらさっさと消えてください。というか今すぐ消えてください」


 私の後ろから彼らに対してとても辛辣な言葉を浴びせているのは、先程までは温厚だった冒険者ギルドの受付嬢さんでしたわ。受付嬢さんの言葉から確かな恨みの念を感じたので、この方々は何度も同じように女性冒険者に声をかけては受付嬢さんに迷惑をかけているのだと思いますわ。


「ちっ、今日の受付担当はリンネかよ。俺たちはただ善意で付き添いをしてやるって言ってるでけだよな?なあ、ゲルド!」


「そうでやんす!ゴードンさんの言う通りでやんす!リンネさん、言いがかりはやめてほしいでやんす!」


「クソどもが、あーあ今回こそは私本気でキレたわ。ちっと表出ろやお前ら!いっぺんぶっ殺したるわ!」


 流石にこんな大声を出しているので、周りからの注目を集めてしまっていますわ。そして、それは受付嬢さんの急変した姿を見られているということですわ。これは彼女にとって大丈夫なことなんですの?まあ一部の方はギャップ萌え?などとおっしゃりそうですが、この状況は私が原因でもありますし……いや、よく考えたら私も巻き込まれた被害者ですわ!ってそうじゃありませんわ、このままだと彼女の本性がジェノサイトであると噂が立ってしまいますわ!この状況を丸く収めるには、私が一肌脱ぐしかありませんわ!


「お三方ともお見苦しいですわよ!おほん、私は今回初めてのお仕事ですの。ですので、一人でのお仕事に不安がないと言えば嘘になりますわ。でも、初めてだからこそ一人で成し遂げてみたいのですわ!ですから、今回のお誘いは丁重にお断りさせて頂きますわ!」



 完璧に言い切りましたわ!これでお優雅に巻き引きですわ!そう思いましたのに……


「なんだとてめー!新人のくせして俺様たちの誘いを断るだと!どうせ貧弱ステータスなんだろ、お前!だからリンネが依頼の受注を渋ってたんだ!クソ雑魚のくせに生意気言ってんじゃねーぞ!」


「そうでやんす!女は黙っておいらたちみたいな強い男に従ってればいいんでやんす!」


「やっぱりてめえらぶち殺す!おめーらみてーなのは生きてるだけで迷惑なんだよ!さっさと死ねやごらぁ!」


 どうしてこんなことになっちゃったんですの!!!



 私が現状に嘆いていたところ、ゴードンと呼ばれている巨漢の大男がこんな提案をしてきましたわ。


「そうだぜ、俺様名案を閃いたぜ!この女のステータスと俺様のステータスを比べて、俺様のステータスの方が高かったら、俺様たちと仕事を受けるってのはどうだ!」


 そんな提案を私が受ける義理はないですわと思いましたわ。


「流石ゴードンさんでやんす!力だけでなく頭もきれるなんて男の中の男でやんす!」


 ゲルドと呼ばれている背の低い方の男は、根っからの子分体質のようですわ。


 そして、ゴードンが私を挑発してきましたわ。


「おい女、この勝負受けてくれるよな!まあ女だし、このゴードン様との勝負から尻尾を巻いて逃げたとしても、誰か優しい男が慰めてくれるかもな!で、どうなんだ?この勝負受けるのか受けないのか」


「当然、受けませ……」

「上等じゃねーか!受けてやるよカスども!負けて泣かされても知らねーからな!」


『当然受けませんわ!』そう告げようとしたところ、何故か冒険者ギルドの受付嬢のリンネさんが私の代わりに勝負を受けてしまいましたわ。


 そしてリンネさんはその美しい赤色の髪を靡かせながら、私にこう告げましたわ。


「それじゃあソフィアさん、あいつらのこと再起不能にさせるぐらいギャフンと言わせてやってくださいね!私、期待してますから!」


 私にそう言い終えたリンネさんは、私の前に水晶を差し出しましたわ。


 私は再び思いましたわ。


『本当にどうしてこんなことになってしまったんですの!!!』


 私は考えるのをやめて、水晶に触れましたわ。



──


マロモカです!


ソフィアさんが如何にもな二人組に絡まれてしまいましたね!


因みに、何故こんなときにユニークスキル:【お優雅】が発動していないのかというと、ソフィアさんは現在思考を放棄しているためです!


自分の力でお優雅に解決したはずなのに、何故か勝手に話が進んでしまって考えるのを辞めてしまった、可哀想なソフィアさんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る