余ったクッキーは誰のもの?

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余ったクッキーは誰のもの?

 「ねえねえ、佳奈ちゃんに聞いてほしい話があるんだけどー」

 放課後の夕日が照らす教室。

 美香は気怠そうにいい、わたしのシャーペンを持つ右手を握ってくる。今の季節が秋だからか、美香の手は少し冷たい。

 「なに? 今学級日誌書いてるんだけどー」

 わたしは感情のない言葉を放ち、美香の手を水気を落とすように払う。

 「えーいいでしょう。すぐ終わるからー」

 わたしの前の席に座っていた美香は、今度は学級日誌の上に顎を乗せてくる。シャーペンの芯で頬を刺してやろうかと考えたが、赤く膨らんだ頬が金魚のように可愛かったので止めておいた。

 わたしは溜め息を吐き、机の上に頬杖をつく。

 「分かったよ。で、話ってなに?」

 「お、やっと聞く気になったか」

 そっちから頼んできたのに、なぜか美香は居丈高に言う。

 「早く終わらせてね。五時半までには職員室に持っていきたいから」

 わたしは右手でペンを回しをしながら、BGM代わりに美香の話を聞くことにした。美香は学級日誌から上げ、姿勢をこちらに向けてくる。

 「わたし、先週の連休に家族と旅行に行ったの」

 長くなりそうだなと、わたしは心の中で思う。

 「でね、帰りにサービスエリアのお土産屋さんで、部活の人達にお土産を買ったの」

 「へーそうなんだ」

 わたしは心なしの相槌をうつ。

 現地ではなくサービスエリアの店でお土産を買うのは、奔放な性格の美香らしい。

 「バレー部の部員は全員で二十人だから、二十個入りのクッキーを買ったの。全部同じ味だから喧嘩にならないなーって。あと安かったから」

 おそらく、最後が一番の決めてだろう。

 「それで一昨日、わたしは用事があったから部活に行けなくて、昼休みにお土産ですっていう張り紙をつけて、部室に置いておいたの」

 わたしはペン回しをしながら、学級日誌の報告の欄に何を書こうかと考える。今日のお弁当の具材でと書こうかな・・・

 「で、昨日の放課後にみんな食べてくれたかなーって期待しながら部室に行ったの。そしたら一個だけクッキーが残ってて、誰か一人だけ食べてないことが分かったの」

 わたしはペンを床に落としてしまう。いや、それは流石に彼女でも・・・

 「ちょっとー、ちゃんと聞いてる?」

 「あ、うん、聞いてるよ。続きをどうぞ」

 わたしは手のひらを美香に向ける。

 美香は空気を大きく吸い、真剣な眼差しで話を再開する。

 「あたし、誰が食べてないのか気になって、先輩とか後輩に聞いたの。味はどうだったーって」

 わたしは笑うのを必死で堪える。

 「でもね、みんなクッキーを食べたらしくて、全員が美味しかったとか甘かったとか言うの。一人はまだ食べてないのに・・・」

 「へ、へぇー」

 わたしはシャーペンの芯で自分の太ももを刺す。

 「なんで嘘なんてつくのかな。正直に食べてないって言えばいいのに」

 「その話、他の誰かにした?」

 「えっ? 同じ部活の友達には言ったけど、どうしたの?」

 美香は話の腰を折られて首を傾げる。もしかしたら、その友達はクッキー食べていない犯人を知っていて、敢えて美香には話していないかもしれない。

 「その友達は、嘘をついた人に対してなんか言ってた?」 

 「えーとね、わたしの一番身近にいる人って言ってたかな。でも、一番身近なら佳奈ちゃんになっちゃうんだけど」

 それを聞いて、わたしは吹き出して笑ってしまう。その友達も、きっとわたしと同じ気持ちだったのだろう。

 「え? なんで笑うの?」

 美香は目を丸くする。

 わたしは手で口を覆い、涙目になりながら返事をする。

 「いや、嘘をついた犯人がわかったから」

 「ええー!? 犯人って誰なの教えて!」

 美香は机の上に両手をつき、身を乗り出して犯人の正体を訊いてくる。

 わたしはシャーペンを置き、美香の瞳に映った自分を見ながら言う。

 「わたしの一番身近な人」

 

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