第4話 チョロすぎるギャル

 ――【本日のお題:黒髪美少女のスカート内に頭を突っ込め】


「え……」


 迎えた翌朝。

 午前7時にデイリーミッションが更新されたのはいいとして、


「おい待てよ……こんな条件指定あるの?」

「ありまぁす」


 懐かしのSTAP細胞発見者みたいな言い方をしたのは、死神のアスラだ。

 身支度を整える僕のベッドで、呑気に横たわっている。


「デイリーミッションは気まぐれなので、大雑把な指示もあれば、事細かな指示もあるんです。髪色どころか、身長体重などを指定してくる場合も」


 ぐおお……じゃあ冴沼さえぬまっていうカノジョが出来ても別に安心じゃないじゃん。

 まさに今日のデイリーミッションがね……。

 冴沼は金髪だから条件に合ってない😭


「染めてもらえばいいじゃないですか」

「……簡単に言うけど、そんな要望聞いてもらえると思うか?」

「コクってすぐおっぱいを揉ませてくれるチョロさを持つのが、冴沼妃繭ひまゆというギャルですよ? 染髪のお願いくらい余裕で聞いてくれると思いますけどね。その後スカートの中に頭を突っ込ませることだって、きっと叶えてくれるはずです」

「ンなわけ……」


 半信半疑で僕はLINEを起動。

 それから、


『なあ、黒髪の冴沼が見たいんだけど、今日染めてもらえたりする?』


 と送信。

 すると――


『は? めんど』


 ……ですよね。


『でも稲瀬がそう言うならやる♡』


 ふぁっ!?


「ほら言ったじゃないですか。冴沼妃繭はチョロいんです」


 チョロすぎて心配になるな……。


『でも今から染めるのは無理だから、放課後にね』


 とのことで。

 もちろんそれに文句はなかった。


   ※


 やがて迎えた放課後。

 学級新聞の作成業務は昨日なんとか終わらせており、今日はフリー。

 僕は冴沼と一緒に下校中だ。

 6月上旬の生ぬるい風に吹かれている。


「……僕優先でいいのか? 友達とカラオケとかさ」

「あのさぁ、カレシよりも優先することなんかないっての」


 冴沼はそう言って僕の隣を歩いている。

 良い子だなぁ。大切にしたい。


 ……でもデイリーミッション次第では別の女子を探してお頼み申さないといけなくなりそうなのがね……。


「どうかした? なんか表情暗いけど」

「あ、いや、なんでもない……」


 そう言い返す傍ら、背後に控えるアスラが僕の考えを読み取ったように、


「後ろめたく思う必要はありません。命を守るためにはしょうがない。そうでしょう?」


 と言ってきた。

 そうなんだよな……生きるためにはしょうがない。

 別の女子を探さなきゃダメになったら、そうするしかない。

 けど、冴沼のことは出来るだけ大事にしよう。


 そう考えていると――


「あ、そこがあたしんちね」


 住宅街の一角。

 ごく普通の一軒家を、冴沼が指差した。

 そう、僕は今冴沼んちを訪問することになっている。

 女子の家に上がらせてもらうのは、僕史上初である。


「お、お邪魔します……」


 玄関からしてもう良い匂い。

 誰も居ないっぽい。

 一人っ子かつ親が共働きだろうか。


「部屋散らかってるから、あんましジロジロ見ないでよ?」


 そんな釘を刺されつつ、2階の冴沼ルームに案内された。

 そこは女子らしい暖色系の彩りに包まれたキュートな部屋だった。

 別に散らかってない。


「ほな髪染めてくるから待ってて」

「悪いな……髪、わざわざ黒に」

「いいのいいの。1回見れればいいんでしょ? だったらスプレーでぷしゅーって簡易的に染めれば済むし、あたしショトカだからそんな手間でもないし」


 そう言って冴沼が下に降りていった。


「ではこの隙に下着でも漁りましょうか」

「なんでだよ」


 僕はカーペットにあぐらを掻いてステイ。

 それから10分後――


「ど、どうかな……めっちゃ久しぶりの黒だから、自分で似合ってるかよう分からんっていうか……」

「おぉ……」


 部屋に戻ってきた冴沼は、見事な黒髪ショトカ女子に変貌していた。

 金髪ギャルの冴沼しか知らなかったけど、これはこれでアリ過ぎる。

 清楚な雰囲気になったわけじゃなくて、ギャルっぽさを残していて小悪魔な感じ。

 いい。すごくいい。


 しかし、さて……本題はここからだ。

 黒髪美少女のスカートに頭を突っ込むのが今日のお題だ。

 やらないと死ぬんだから、やるしかない。


「なあ冴沼、めっちゃ可愛い黒髪になったついでに、もうひとつ頼まれて欲しい」

「め、めっちゃ可愛いんだ……嬉しい。……で、もうひとつの頼みっていうのは?」

「す、スカートの中に頭を突っ込ませて欲しい」

「……キモい」


 返す言葉もないとはこのことだ(白目)。


「でも……稲瀬ならおk」


 ちょ、チョロい。


「――えんだあああああああああああああああああああああいやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ♪」


 決定的瞬間に毎回歌う気かこいつ!


「ほな突っ込めばいいじゃん……ほれ」


 恥ずかしげに佇んだまま、冴沼がそう言って誘ってくる。

 冴沼はまだ制服のままだ。

 太ももの半ばまで丸見えの、折られまくったスカート。

 あぐらを掻く僕の角度からだと、かすかに黒いショーツが見えている。


 嗚呼……我が桃源郷。

 今行きます、そのユートピアへ。


「じゃ、じゃあ失礼して……」

「い、言っとく匂い嗅がないでね……」

「善処する……」


 そうして僕は冴沼のスカートに頭を突っ込んだ。

 匂いを嗅がないように息は止めた。

 それでもなんかこう、生温かい空気を感じ取れるし、視界は凄いことになっている。

 肌色の御柱に挟まれ、見上げれば黒いお布。

 雨が降ったとき、ここで雨宿りしたいですね(しみじみ)。


 ――【本日のお題:達成】


 キター!!

 よすよすよす……これで僕は明日も生きられる。


「ありがとう冴沼! もう大丈夫!」

「あ、うん……どういたしまして。これからもさ、なんかシたいことあったら言いなね……なるだけ叶えてあげるから」


 うおおお……僕のカノジョは良い子です。

 ありがたや、ありがたや。


 そんな風に拝みたい気分で、このあと一緒に宿題をやったりして平穏に過ごしたのだった。

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