第3話 いざ
今日中に女性のおっぱいを1回揉まないと僕は死ぬ、らしい。
なんだそりゃって話だけど、アスラとか言う僕以外には見えない逆バニー死神が居るからには、信じるしかない。
今日はあと8時間ほどで終わる。
そんな夕暮れの現在、僕は教室で学級新聞の作成業務に耽っていた。しちめんどくさいが、隔月ペースで作らないといけない学級委員長の仕事なので仕方がない。
「こんなのさぁ、真面目に書いてもどうせきっちり読まれないのが虚しいよね」
放課後の教室は無人だが、僕ともう一人の生徒が居残っている。
僕と机を合わせて一緒に作業している女子代表の学級委員長――
冴沼はめちゃくちゃ整った顔立ちの金髪ショトカギャルだ。ナチュラルメイクに、ネイルもばっちり。
クジ引きの敗者として学級委員長の立場を押し付けられた僕と違い、冴沼は一応立候補で学級委員長の座に就いている。あたしバカだからせめて内申稼ごうと思ってさ~、というのが立候補した動機らしい。
「はあ、今頃みんなカラオケとかで楽しくやってるんだろうな~」
友人たちがワイワイ過ごす風景を思い浮かべて、冴沼は小さくため息を吐き出していた。
友人が居ない僕には分からない苦しみだ。やっぱりぼっちが気楽でいいね。
「ねえねえ、もう稲瀬の顔写真でっかく貼り付けておしまいで良くない?」
「良いわけあるか」
僕のドアップだけが貼ってある学級新聞ってなんだよ。
「割と普通に話せるんですね。でしたらこの調子でおっぱいの件をサクッと頼んでしまいましょうよ。私のおっぱいエールを無駄にすることは許しません」
背後に控えているアスラがふとそう言ってくる。
急かすな……ちゃんとやるから。
ふぅ、さて……ズルズル引き伸ばせばチャンスを失うだけだ。
冴沼がぱい揉みの許可をくれなかった場合、別の候補をすぐに探さないといけないことを思えば、時間の浪費はNG。
というわけで――いざ……!
「なあ冴沼……ちょっといいか?」
「ん~、何さぁ」
「じ、実は頼みたいことがあるんだ」
「頼みたいこと~? へえ、なんか稲瀬が頼ってくんの珍しいね。なんでも1人でやれます、って空気いつも出してるからさ」
ぼっちは余計な介在を好まないからな。
でも今回ばかりはどうしようもない……。
「どれ、とりま言ってみ?」
冴沼がにこっと笑いかけてくる。
こんな僕とも普通に話してくれる時点で、冴沼は良いヤツだ。
そんな冴沼なら、おっぱい揉み揉みを許可してくれても不思議じゃない。
というわけで、期待を胸に僕は率直に告げた。
「あのさ……おっぱいを1回だけでいいから揉ませて欲しいんだ」
「え、キモ」
………………。
「ぷっ、ドンマイ」
アスラが背後で吹き出していた。
お前笑ってる場合か!?
僕が早死にしたらボーナス出ねえんだろう!?
「え、どういうつもりでそんなキモいこと言ってきたん?」
……冴沼は一応事情を聞いてくださるようだ。
「あ――宗太に一応教えておくけど、デイリーミッションの詳細について他言してはいけないわよ? 教えた瞬間に運命が死で確定するから」
うげ……マジかよ。
じゃあ説明出来ないじゃん……。
「ねえ、なんで黙ってんの?」
冴沼は訝しげだ。
「なんも理由ないの? 理由もなしに下心だけでそんなキモいこと言ってきたん?」
「いや、その……」
僕はもにょもにょするしかない。
「あ、分かった! 誰かにいじめられてる? そいつからあたしにそう言えって命令されたとか?」
「……あ、いや、そういうんじゃないんだよ」
「じゃあ何さ?」
「じ、事情は一応あるんだよ……でも言えなくて」
「なんそれ……あたしのことが好きで、回りくどい告白でもしてる?」
……もうこの際、そういうことにしておいてみるか。
ダメで元々、お前のことが好きだったんだよ! と真っ向から情に訴えてみれば良い方向に転がるかもしれないし……。
「そ、そうだよ。僕は冴沼のことが好きなんだ。だからおっぱいが揉みたい」
「ふ、ふーん……」
冴沼はなぜか満更でもなさそうに髪の毛を指でくるくるし始めていた。
え? いや、そんなはずが……。
「あたしさ……バカだから自分にない頭の良さを持ってる男が好きなんよね。稲瀬って、去年ずっと期末のトップ3に居たじゃん?」
「あ、うん……」
勉強だけが取り柄です……。
「だからいいよ……稲瀬がそういう感じなら、あたしは別に付き合ってあげても」
ふぁっ!?
「――えんだあああああああああああああああああああああああいやああああああああああああああああああああああああああああああ♪」
決定的瞬間によく流される洋楽を歌い始めているアスラ……。
逆バニー含めて自由だなこいつ……。
「じゃあ……おっぱい揉む?」
冴沼が椅子から立ち上がり、僕の方に回り込んできた。
な、なんだこの展開……。
「ほ、ほんとに付き合ってくれるのか……?」
「うん……あたしずっとフリーだし、今言った通り頭の良い男好きだし、稲瀬のこと前々からちょっといいなって思ってた部分もあるから……」
ま、マジかよ(白目)。
「で、でもまだじかには揉ませないから……制服の上からね……」
「お、おう……」
うおおおお……マジかよ(2回目)。
冴沼は学校でも1、2を争うくらい可愛いギャルなのに……僕なんかを……。
くぅ……大切にしなければ……。
「ほら……誰か来ないとも限らんし、はよ揉めば?」
ん、と冴沼が胸を差し出してくる。
冴沼の胸は……でっかい。
あくまで現実的なデカさだが、下世話なことを言うなら恐らく棒状のモノは余裕で挟めるサイズだ。
まさしくたわわ。
実りすぎた果実。
それを僕は、
「じゃ、じゃあ失礼して……」
揉んだ。
ニットセーターの上から。
ふおおお……感触はもちろんゴワゴワだけど、すごく……弾力に富んでいる。
「言っとくけど……こういうことさせんの稲瀬が初めてだかんね……」
「お、おう……」
ありがたいご報告をよそに――
――【本日のお題:達成】
お。
――【見事、あなたは明日の運命を切り拓きました。翌朝のデイリーミッション更新までつかの間の休息をご堪能くださいませ】
というメッセージが脳裏に浮かび上がって消えた。
「おめでとうございます、宗太。冴沼妃繭というカノジョが手に入ったことで、今後のデイリーミッションは多少難なく進めていけるのではないですか?」
アスラがそう言ってくる。
いや、もう……冴沼がカノジョになってくれたのは棚ぼたにもほどがあるんだけれど……カノジョが出来たからには、長生きしたい。
そう思いながら、僕はもうしばし冴沼のおっぱいを揉み揉みし続けたのであった。
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