第2話 勇気を
「なあ……アスラはずっと僕のそばに居るのか?」
「はい。監視役ですので」
デイリーミッションを提示されたあと、登校の時間がやってきたので、僕は通学路を歩いている。
政海学園高等学校。
歩いて10分くらいのそこが僕の学び舎だ。
「監視って、何を監視するんだ?」
「デイリーミッションをこなす上で暴力的な行為に出ないかどうか、でしょうか。もし相手の了承を得ずに力でデイリーミッションの達成条件を強制するようなことがあれば、その瞬間にデイリーミッションそのものを没収し、死の運命に突き進んでいただくのがルールとなっていますので」
「な、なるほど……」
僕の本日のデイリーミッションは【女性のおっぱいを1回揉め】というもの。
つまり力ずくでおっぱいを揉んだらダメってことか。
アスラはそれを監視するために僕のそばに居るらしい。
「……一応訊くんだけどさ」
「はい?」
「アスラのおっぱいを揉むのはダメ……?」
「ダメです。デイリーミッションはこの世界内で完遂することが前提となっておりますので、世界から見た場合に異分子である私の胸を揉んでも無意味、条件は満たされないということです。ちなみに身内もダメですよ。他者が前提なので」
……じゃあ女子の誰かに真っ当におっぱいを揉ませてもらわないといけないのか。
うごご……。
「僕、女子の知り合い居ないんだよ……」
「それは大変ですね」
「他人事だなぁ……」
「実際他人事ですから仕方ありません。死の運命から逃れたいのでしたら、胸を揉ませてくれそうな女性を必死に探すしかないですね」
とんでもないことだ……。
「幸いにも宗太は高校生ですから、身近に女子だけはたくさん居るんじゃないですか?」
「まあな……」
「若い女子は何かと性に興味津々なものです。表で清楚ぶったり良い子ぶっていても、内心ではペニスのことばかり考えているような者も間違いなく居ます」
「ぺ、ぺに……口に出すなよそんなこと……」
「ちんちん、もしくはおちんぽとでも言った方がよろしかったでしょうか?」
こいつ……恥じらいがないのか?
「ともあれ、胸を揉ませてくれそうなお相手を頑張って探してくださいませ。女子の知り合いが居ないと言っても、業務的な付き合いのある方が居たりはするんじゃないですか? 委員会活動などで」
「……そりゃ居るけどさ……」
先月4月に2年に進級し、やりたくもない学級委員長をクジ引きで任された僕である。女子代表の委員長も居て、その子とは放課後にアレコレ雑務に耽ることが多い。
「でしたら、チャレンジすればよいのです。その方におっぱいを揉ませてくれないか? と頼んでみましょう」
「口で言うのは簡単だけどさぁ……」
せいぜい業務上の付き合いしかない女子にそんなことを言っても絶対に気持ち悪がられて終わるじゃん……。
揉ませてくれるわけがない……。
「かといって、宗太は死んでもいいんですか?」
「よ、良くないに決まってる……」
急に死ぬ運命ですよと言われて、意味が分からない。
理不尽に死んでたまるか。
「でしたらデイリーミッションを達成するしかありません。勇気を出しておっぱいを揉ませてくれと頼むんですよ」
「……アスラはなんで僕に生存を促すんだ? 死神って普通は寿命を奪う側のイメージなんだけど……」
「それについては、冥界のキャパが昨今問題になっていましてね、出来るだけ人間の魂を冥界に寄越さないようにお達しが出ているんです。それに伴い、監視対象の人間が寿命を延ばすほどに死神にはボーナスが出ますので、あなたの担当者として生存を促すのは私にとって道理と言えるんです」
思ったよりも現実的な理由だった(白目)。
「さて、そういうわけでその委員長仲間の女子におっぱいを揉ませてくれと頼んでみましょう。よろしいですか?」
「……でも上手く行くかな」
「あぁもう煮え切らないですね。でしたらちょっとこっちに来てください。勇気を出せるようにこうしましょう」
「え、なに……」
アスラがいきなり路地裏に僕を引っ張り込んだ。
そして黒いローブをはだけさせると、その下はまさかの超きわどい逆バニーで――
「――な、なんだそれ!?」
「趣味です」
「どんな趣味!?」
「ともあれ――」
豊満なおっぱい、くびれた腰元。
ぷるるん、ぷるるん。
あわわわ。
スタイル抜群の逆バニーにつかの間目を奪われていると、
「宗太に勇気が足りないのは、自分に自信がないからでしょう。ですから私の――」
アスラは僕の手を取り、あろうことか自らのおっぱいに誘導させて――ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
「――私のおっぱいを揉むことで自信を持ってください」
どういう喝の入れ方だよ(困惑)。
で、でもコレは確かに自信が湧いてくる……。
だっておっぱいだぞ?
僕は今おっぱいを揉んでいるんだぞ?
逆バニーのちょうど布地がないところを触っているので、すごくふにふに。
女子のナマ乳を揉んだ時点で、僕は男子高校生の上位数%に食い込んだはず。
イケる……今ならやれる。
なんだって出来そうな気分だ。
うおおおおおん。
「よし……じゃあ放課後に学級委員長として雑務の時間があるから、そのときにおっぱい揉ませてくれって頼んでみるよ」
「その意気です」
迫る死よりも、美少女の身体を張ったエールの方が背中を押してくれる。
男ってのは、我ながら単純である。
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