第4話 異世界への召喚

「早く来てみろよ、夏!」

「何だ?」


時折が立っていた岩場には、何かが書かれた紙があり、でかい石が乗せてあった。


紙は大きな模造紙で、太いマジックで大きな文字が書いてあった。


「君たちを、五分ずれた世界へ招待する」

時折が声に出して読んだ。僕らは顔を見合わせた。


紙はまだ少しも海の水をかぶっていなかったし、きちんと石が乗せてあったことからしても、誰かが意味があって置いていったと考えられた。


「何だよ、これ?」

「誰かが置いたんだろう」

時折は、落ち着いて答えた。


「そりゃ、そうだろうけどさ。五分ずれた世界って?」

「うーん。いい感じになってきた」


時折はうれしそうな顔をして手紙を検分けんぶんした。


「僕ら宛てってわけでもないよな?」

「いや、僕ら宛てに決まってるさ」

「自信あんだな」

「まあね。さてと、ちょい、家帰ろうぜ」


時折は鷺影屋の裏で板切れを探し始めた。


「どうすんだ?」

「看板にしよう」

「へ? それ、どういう遊び?」

に返事を出す」


なるほど、と返事をしたものの、もちろん全くわけの分からないまま、時折の言うとおりに紙にガムテープを貼って看板のようなものが出来上がった。


「君たちを、五分ずれた世界へ招待する」


改めてちゃんと見ると、それは特に特徴のない、大人とも子どもともわからない文字の羅列だった。時折は道具箱にあった短い赤のマジックペンを掴むと、キュッとキャップをあけ、あっという間に書いてあったメッセージの上に”FRAUD!”と大書した。


「どういう意味?」

「ウソつきめ、って書いたのさ」

時折はにやりと笑った。


僕らはそのを黙って見た。なんかちょっと、それはカッコよくなった気がした。


僕らはその板切れをまたワイイクへ運び、満潮になっても濡れずに人目につきにくい場所(もちろん、どこがそうなのかを子どもなら誰でも知り尽くしていた)に立て掛けた。


「大人に見つかると、ややこしくない?」

「ほんとにそう思う? 夏くん」

時折はちょっと首をかしげるいつもの仕草で僕を見ながら言った。


「いや。思わない。大人は気づかない。そもそも、見えやしない」

「その通りだよ。これは僕らにしかすくいあげれない通信なんだ。返事をしてあげないと」

「イケメンのナイアルラトホテプの出番かな?」

僕が言うと、時折は、あ、フルで言えるんだ?と目を輝かせた。


「いや、夏くんはまだとっときたいんだよね」

時折は岩場の蟹をつまみ上げながら言った。

「何だよ、人を駒のようにさ」

「うれしいくせにさ」

時折は赤い蟹を僕の方へほうってきた。

「およっ!」

「ハハハ。夏はかわいいな」

慌てる僕を見て、時折は機嫌よく笑った。


僕はふと我に返ると、おう、帰ろうぜ、お袋さんに仕事頼まれてたじゃん、と時折を急かして隈澳わいいくを後にした。

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