第2話 鷺影屋でのアルバイト
「夏、今年も手伝ってくれよ。俺んとこ」
「あ~、もうそんな時期か」
僕、
「じゃ、早速お前んちに寄るか」
僕たちは駅の改札を出ると、
鷺影屋というのは、時折の家がやっている旅館だった。鷺影屋は代々続いている旅館で、「エドジダイから続いてるんだぜ!」と、エドの何たるかを知らない頃から時折は自慢げにそう言っていた。本当だとしたら、数百年も続いているわけだ。
入口には紺地に白で
小さい頃から鷺影屋に出入していた僕は、夏になると当たり前のように宿の仕事を手伝っていた。最初は、一日手伝うとアイスでもジュースでも好きなやつを一つ食べていいことになっていた。
「こんにちは、おばさん」
僕は裏にいた時折のお袋さんに挨拶をした。あぁ、夏ちゃん、ごくろうさん、とお袋さんの挨拶も適当に軽くって、今年も夏休みよろしくね、とかいちいち言わないところが、ここの家の変わっててすきなところだ。
時折が大きな冷凍庫からアイスモナカとガリガリ君を取り出し、僕たちは外が見下ろせるぼろい椅子に腰かけた。もう幾度となく繰り返してきたルーティンだ。眼下にはのんびりと車が走っていた。
「あのさ、夏。下を通ってるあの車がさ、ぜんぶ敵の襲撃ってことにしたら、おもしろくない?」
「ん?」
「車ひとつひとつが、敵なんだよ」
「使徒みたいにデロデロ湧いてくるわけ?」
「そうそう! さすが、夏くん! 俺の言いたいことよくわかっててナイス!」
時折が機嫌よく叫んだ。
「敵の名前も考えようぜ」
「そだな・・・・・・」
僕はしばらく足元の泥をサンダルの先でじょりじょりやったあと、ガイリン、てのはどう?と言った。
「ガイリン? どんな漢字?」
僕は食い終わったアイスの棒で「骸輪」と地面に書いた。
「あ~、なるほどね!冴えてんな、夏くん」
「ま、何となく」
「君さ、体育祭のクラスのスローガンとか考えんのうまかったもんな」
「まぁ、そのノリ」
でさ、その骸輪がデロデロ湧いてくるわけだけど、骸輪には実は親玉がいてさ・・・・・・と、僕たちはあれやこれやと設定を増設し、盛り上がるあまり、時折はノーパソを持ってきて、ぱたぱたと何やら打ち込み始めたのだった。
時折のお袋さんが、あんたたち、オリーブの仕事やってくれる?と僕たちに声をかけたが、時折は顔を上げもせず、没頭していた。こういうときの奴は、てこでも動かないので、あ、はーい、と返事をして僕だけ立ち上がった。
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