第三章 フェニックス その2

「まいったよボニー」

 寺院に帰ってきたカナタが、肩を落として珍しく愚痴を言う。

「あらどうしたの?」

「いや、今日ギルドでイザコザに巻き込まれてね。つい調子にのって…その」

「ああ、思いっきり相手に恥をかかせたアレね。別にいいじゃない」

「なんで知ってるの?」

「女神の名を口にすればその指輪と私は繋がるの忘れた? もう、ボニーの指輪なのにマジェスタ様のものになんかして! 少しは私を優先する気持ちをもちなさい! 第一号信者!」

 ボニーは忘れ去られた女神であり、現在では誰もその名を知らない。しかし、大女神マジェスタは今でも信仰されていた。だから、カナタとしては機転を効かせたつもりだったのだが、ボニーからすると不信心な行為であったらしい。

「そんなこと言われても…下手に詮索されて今後の行動に支障がでるとまずいから、ボニーじゃなくマジェスタ様の名を使ったのに…。そんなことより…なんか憂鬱」

 と、カナタは落ち込む。

「何、落ち込んでるのよ。別に何も悪いことしてないし、いっそのことあんな奴ら殺っちゃっても良かったのに。カナタなら瞬殺でしょ?」

「物騒なこと言わないでくれ。ほんとに女神か?」

「女神だからこそ罪を犯した者の命を奪うことは、普通にあるわよ。優しいだけが女神じゃないわ」

 確かにその通りだ。前世においても神とされる存在達は意外とシビアで怖い。

「でも、魔物なんかは普通に殺しているし、ゲームのときは対人でも戦って相手を倒してきたんでしょ? それで抵抗あるの?」

「ゲームと一緒にしないでくれ! なんというか魔物相手だとゲームの延長のような感覚で戦えるし、慣れているけど…、普通の人間相手だとどうも…ね。なにより、社会の中で生きる上で恨みを持たれると色々面倒なんだよ」

 ここら辺りは見かけ16歳でも中身はアラフォーのオッサンである。特に社会的バックボーンをもっていないことの危うさは前世で体験済みだ。

「まーそんなに深く考えなくても良いわよ。こちらの世界はカナタの前世より大雑把だから。でも、恨みをかって…復讐しにくることもあるから気をつけてね」

「まいったな…。レベルの高い相手に一斉に襲われたら手加減なんてできないぞ」

「あら余裕ね。まるで必ず勝てるみたいなものいい」

 少し驕りがすぎる発言をしたことに恥ずかしさを感じたが、あのメンツに襲撃されても十分に勝てる目算はあった。ただし、容赦しなければ…だが。

「とにかく気をつけてね。死んだら戻れるかわからないわよ」

「え? 蘇生なんてできるの? ゲームとほぼ一緒の世界だけど、流石に死んだらそこで終わりだと思っていたんだけど」

「そうなっては私が困るわ。何がなんでも私が蘇生してあげるから…と言いたところだけど、今の状況では無理かな…。だから気をつけてって言ってるの」

「そうだね。気をつける」

「ヨシ」とボニーが微笑む。

「…それと。これもわかっていると思うけど、相手が人間でも容赦しちゃダメよ。いずれにしろ必ず対人戦闘は生じるだろうから…覚悟は決めておいてね」

 そんなシビアなボニーの言葉。気持ちが引き締まると同時に、今まで以上に憂鬱になるカナタであった。


 カナタが寺院でボニーに愚痴をこぼしているのと同じ時間。すでに辺りは暗くなりつつあった。例のフェニックスの一行は城塞都市メルンでも高級と言われる宿屋に泊まっており、その宿屋の馬小屋に来ていた。この世界では馬や馬車が主な交通機関であったから、いわば駐車場といったところだ。高級宿屋の駐車場には普通、泊まり客はこない。宿屋の人間か従者が出入りするだけである。そんな場所にシュトルム達は来ていた。

「この役立たずがっ!」

 アドンの苛立つ怒声が響く。それと同時に小柄な獣人が床に転げる。

「あんな恥を兄貴にかかせやがって! なんてことしてくれる! この毛玉チビがっ!」

 そう怒鳴ると再び蹴りを腹に入れる。獣人は「ぎゃぶ」と小さく鳴きうずくまって震えていた。この獣人は全身にハムスターのようなモフモフな毛が生えており、お尻には足と同じ位大きな尻尾が生えていた。その尻尾の毛は逆立ち、痛みにふるえているのがわかる。

「さて、どうしてあんなことしたのか、教えてもらおうか…」

 今度は控えていたシュトルムが前に出てくる。

「ご、ごめんなひゃい… あ、あれはわらし…にもわからにゃい…でしゅ…」

 腹を蹴られて呼吸が整わないのか、途切れ途切れ辛うじて声を出す。呂律もまわっていない。

「わからないだ? わかんねーのはこっちの方なんだよ!」

 再びアドンが蹴る。小さい悲鳴を上げまた転がる。

「き、効かなかったんれす…。わ、わらしは、い、一所懸命…スキルを使ったのれすが… あ、あの人にはまるで…つ、通用しなかったのれす…」

 なんとか身体をおこすとかぶっていたフードがめくれて顔が露わになる。猫…というよりタヌキと人の合いの子のような顔つきであった。そして頭の両側から捻じくれた特徴的な角が生えていた。こちらの世界には角をもつ種族は多いが、この角の形はかの冒険者のトラウマ、アグニデーモンのものにそっくりであった。無論、この獣人はアグニデーモンではない。彼らの肌は黒く水棲生物を連想させるようなのっぺりとした肌をしているのだから。

「わらしは一所懸命がんばったのれす… ホント…れす… し、信じてくら…さい…」

 膝をつき、肩を震わせ仰ぐようにシュトルムたちに哀願する。口からは血と泡が混じった唾液がこぼれ、涙がボロボロ落ちる。しかし、それを見守るパーティーからは一切の憐憫の感情を引き出すことはできなかった。

「信じろだと? お前をか? お前のような半端な魔獣人をか? 笑わせるな!」

 シュトルムが容赦なく顔を蹴る。勢いで後ろの秣にすっぽり埋まってしまった。シュトルムは顎で合図し、アドンが蹴られた魔獣人を荷物のように引き出し無造作にシュトルムの足元に放り投げた。

「いいか、ディール…。お前は私のためにそのスキル“魅惑チャーム”を使う。ただそれだけの存在だ」

「ふ、ふぁい…」

「にもかかわらず…、その努めを果たさなかった…」

 シュトルムは右手にはめている指輪をイジる。それを見てディールと呼ばれた魔獣人はハッとする。

「そ、それは…や、やめてくら…ぶぎゃあああ」

 いきなり身体を痙攣させディールが低く呻く。大声で叫ぶのではなく、押し殺したような、声も出せないような苦痛を受けた。そんな感じである。

「いいか…。もう失敗は許さんからな…。もし次にこんなことがあったら…このまま苦しみ死にしてもらう。わかったな!」

「あぎゅが…がぎゅ…」

 分かっているのかわかっていないのか、白目を向いて痙攣を続ける。シュトルムは「ペッ」とつばを吐いて仕置きをやめた。もう飽きたという体である。

「おやおや、ずいぶん荒れていらっしゃいますね。その服従の指輪を使いすぎると死ぬ以前にディールが使い物にならなくなりますよ」

 シュトルム達の後ろから声がかかり、そちらを見ると背の高い男が薄ら笑いを浮かべて立っていた。

「タイヤールか。お前の連れてきたこのクズのお陰でとんだ恥をかいたぞ」

 タイヤールは慇懃に頭を下げ挨拶をする。こざっぱりとしているが高級な服装からは、何処かの大家の執事のようにも見える。が、しかし、白塗りの顔と唇の派手な紫色が不気味な違和感を醸し出していた。

「ギルドでのお話は聞きました。なんでもコイツのスキル“魅惑チャーム”が機能しなかったとのこと… まぁ、半端者の実験体ですから…そういうこともあるかもしれませんが… その通用しなかった相手は気になりますな」

 ここで言ってる「魅惑チャーム」とは状態異常を起こすスキル能力である。これにかかると相手の言いなりになってしまう。ギルドで起きた騒ぎでのシュトルムの間抜けな一連の行動は、このスキルにかかった相手に対するものであったのだ。

 つまり裏でディールが相手に“魅惑チャーム”をかけ、いかにもシュトルムの威光に相手が勝手にひれ伏しているように演出する予定だったのだろう。過去にも幾度も同じようなことをしており、彼らの名声はこういう姑息な手段で培ったものだったのかもしれない。

「おい! そんな半端者をよこすってのはどういう了見だ!」

 アドンが噛み付くが、シュトルムが制する。

「それはいい。で、なんの用だ?」

「はい、なんでも最近、この街の近所で新しいダンジョンが発見されたとか」

「なんだと? それは本当か? 初耳だな」

「当然です。ギルドマスターとこの街の知事が箝口令をひいて、今、調査しており、しかもそれを任されているのが例の冒険者という話です」

「あの小僧が?」

「すでに調査は大枠すんでいるとのこと。どうです? 興味ありませんか?」

 タイヤールはいやらしく口角を上げる。ダンジョンの宝とその秘密を横からかっさらいませんかと誘っているのだ。

「詳しく聞こうか」

 シュトルムはニヤリと笑う。足元でわずかに痙攣するディールを置いて、一同は高級宿屋のスイートルームに向かった。


 夜も更け街も眠りにつくころ、寺院の地下ではボニーの絵画の前にカナタがお茶をお供えしていた。

「うん、良い香りね…」

 ボニーは絵の中でお茶を堪能している。お供えをすることで、鏡像のように絵の中に映し出され、ボニーが手に取ることができるのだ。その後はお下がりとしてカナタなりネズミなりがいただく。別に、食べたり飲んだりしなくてもボニーは平気だが、こういう人間的な行動が好きで地上に降りてきた変わり者の女神である。

「それじゃ、僕はコレをいただいたら休むから。後はよろしくね。ねずみさん」

 と、いうとボニーの絵画の前で控えていたネズミが一礼する。すっかり寺院地下の住人として馴染んていた。

「おやすみカナタ…って…ちょっとまって…」

「どうしたの? ボニー」

「なーんか嫌な空気がこちらに近づいているわ」

「え? この寺院に?」

「うん…この感じ…敵意?」

 カナタは装備を素早く装備を身に着け表に向かった。


「なんか嫌な雰囲気の廃墟だな」

 フェニックスの一員がつぶやく。しかもヒーラーだ。神官でもある男が幽霊でも怖がるかの発言をしている。普通になら冷やかしの材料だが、他のメンツも同じ様に感じていたらしい。

「行きたくねぇって感じを受けるのは初めてだぜ」

 今度は盗賊だ。魔術師もそれに同意する。長年、冒険者として暮らしてきて恐ろしい魔物の住処でもあるまい、ましてや街の中の廃墟にこんな印象を受けるのはまずありえない。廃墟化した寺院の敷地前、半分崩れかけた門の前にただ立っているだけなのだが。

「馬鹿なこと言ってないで行くぞ」

 シュトルムがメンバーを促す。仲間も渋々ついていく…が、一人だけ動かない者がいた。ディールである。

「何してる。さっさとしろウスノロ!」

 アドンが罵声を浴びせるが、ディールは動かない。というより、動けないのだ。ふさふさのしっぽはたぬきのように膨れ上がり、全身の毛は逆立ち、ふるふると身体を震わせていた。

「ら、らめれす… そ、そこへは入っちゃダメ…」

 うわ言のように言う。「はぁ?」とアドンが不審がる。

「いいかげんにしろよ、今度はお前にもちゃんと働いてもらうからな。スキルでちゃんと相手を状態異常にしろよな」

 ディールは涙目でフルフルと顔を左右に動かし…

「そ、そこは近づいちゃいけない…場所なんれす… 行けません…れす」

「ごちゃごちゃうるせえ!」

 首根っこをつかんで荷物のように持っていく。が、このときばかりはディーンも激しく抵抗する。こんな抵抗は見たことがない。アドンも仲間たちもこれには驚いた。

「いい加減にしろ」

 シュトルムが指輪を操作する。

「びぎゃ!」

 ディーンが悶絶し転倒する。

「この毛玉…ぶっ殺した方がよくないか? 兄貴」

「イラつくのはわかるが、後にしろ今はあの小僧を締め上げる方が先だ」

 シュトルムに促されアドンは怒りを抑えるが、それでも倒れているディールに蹴りを入れるのは忘れない。ゴロゴロと転がる。そして転がった先に一人の少年が立っていた。

「酷いことをするな。この子は仲間じゃないのか?」

 カナタだ。

「小僧、探す手間がはぶけたぜ…! 昼間の借りを返してやる!」

 猛然と突進してきたアドンの右手には、ゴツいメイスが握られていた。これで力任せにぶん殴ろうというのだ。確実に殺しに来ている。シュトルムがそれに気がついて止めようとするが間に合わない。

(殺したら元も子もないだろ! この脳筋馬鹿が!)

 しかし、その攻撃はあっさりパリィされてアドンは地面にへたり込む。カナタがその気ならダガーを突き立てて即絶命する…が、それ以上は攻めなかった。

「く、くそ…」

 尻もちをついた状態のまま後退りしながらも、落としたメイスを探すアドン。メイスは重たい先端部から落ち、地面に突っ立っている。そしてその脇にはカナタがいた。そしてカナタがダガーで軽くそのメイスを叩いたかと思ったら、メイスが半壊してしまった。

「な、なんだ?!」

 武器破壊のスキルである。おそらく一合でも武器を打ち合わせたら、それだけで持っている武器が使い物にならなくなるだろう。

「小僧…。色々できるみたいだな。面白い。やはり私に従属しろ。そして、稼いだ金は全部チームに入れるんだ。…あとそれから、ダンジョンの調査報告書があるだろ、それも貢いでもらおうか」

 カナタはため息をつく。こんな強欲なやつはこちらの世界に来て初めてである。なまじ良い人ばかりだったのでつくづく嫌になってきていた。

「あんたは馬鹿か。誰がそんなこと承知すると思っているんだ?」

「クク…、お前は言う通りにするさ…」

 シュトルムは指輪を操作し、「ディール、やれ!」と命令した。

 倒れていたディールはなにかのスイッチが入ったかのように飛び起きカナタに飛びつく。ヒョイとかわすが、執拗に追いすがった。攻撃というよりとにかく触りたいといった感じである。

(接触して発動する系のスキルかな? 何をされるかわからないからここは…)

 カナタは留まりの壺を使った。これは一種の痺れ薬の入った壺で、相手に投げつけ一定時間動けなくする。ただ、スキルと違ってこれは薬だけに対応策がある上、種族や魔物によってはまるで効かない場合もあるし、高レベルであればレジストも容易であった。とはいえ対人では大抵効くし、レジストされるにしても一瞬動きが鈍くなる。牽制には十分でありそこそこ便利なのである。

 寸での所でディール動きが止まり、勢いで頭にかけていたフードがめくれる。その姿にカナタは瞠目した。

(なんだこの子は…こんな種族、ゲーム内…[仮初の世界]にいたっけか? こちらの世界特有の種族? …でもこの角…どっか見たことがあるような…)

 この世界は前世にプレイしていたゲームとほぼ同じ世界のハズだ。この世界を作った女神が言っているのだから間違いない。ただ、現実故に住んでいる者達によって微妙な差が生まれることはあった。が、種族となると話が違う。

(一種の突然変異か…、それとも隠しキャラみたなものなのか…)

 流石のカナタも困惑しているところにディールがカナタの方向にゆっくりと倒れてきた。うっかりカナタは倒れるディールに手を差し伸べてしまった。そして柔らかい肉球の手に触れてしまったのである。カナタは(しまった!)と焦る。そしてディールは涙を浮かべたどたどしく言う。

「ご、ごめんなさい…」

 ディールの頭に生えている特徴のある捻れた黒い角が真っ赤に輝く。ディールが全力をもってスキルを発動した証だ。ディールのスキル“魅了チャーム”は対象に与える影響力は距離に比例しており、距離があると好感度を大幅にアップするだけだが、近くなら言いなりできる。そして接触時に最大限発揮すると相手の意志を完全に奪ってしまう。それはもはや魅惑ではなく、洗脳と言えた。

「どうだ、これでお前は私の言いなりだ! フハハハハ!」

「うう…ごめんなさい~」

 ディールは悔恨の涙を流す。人の意志を完全に奪ってしまうこの力をディールは忌々しいものだと思っていたからだ。しかし、シュトルムの獣人を服従させるアイテムを使った強制力には抗えない。…が。

「なぁ、このスキルって一体なんなんだ? 何をしたんだ?」

 カナタは何もなかったように目の前のディールに聞く。ディールは訳も分からぬまま力を使い果たしその場に倒れてしまった。

「え?」

「は?」

 カナタ以外がみなポカーンとなっている。だが、ポカーンな感想はカナタも持っているだろう。角の変化があったが、他になにも変わったところがないのだ。

「な、何故だ! なんでお前は平気なんだ? ディールの魅惑チャームを防ぐ方法はないハズだ!」

「魅惑? なるほど状態異常か。あいにく僕にはどんな状態異常も効かないよ」

「う、嘘だろ…な、なんで?」

「偉大な女神様の加護があるからね。さて、奥の手を使っても何にもならなかったんだ。まだやる?」

 シュトルムはあっけに取られた表情から、ひどく険のある表情に変わる。その気配に仲間も敵に対するフォーメーションに移った。正面にシュトルムとアドン、その後ろに魔術師とヒーラー、そしてカナタの背後に盗賊がつく。

(魔物相手ならこれがベストかもしれないけど…)

 カナタはスタスタとシュトルムへの間合いを狭める。あまりに無造作に近づくので、アドンや後衛が戸惑う。シュトルムだけは間合いに入ったカナタに例の御大層な名前のついた魔法剣で切りつけた。だが、剣は空を切り、その剣をカナタはダガーで打つ。超高級な魔法武器はあっさり砕け散った。

 再びあっけにとられるフェニックスの面々。だが、カナタは今回はこれだけで済まさなかった。返す刀でシュトルムの右手、剣を持っていた腕を鎧ごと切断してしまったのだ。

「ぐあああああ!」

 大声で叫ぶシュトルム。魔術師もヒーラーもアドンすらどうして良いのかわからない。大体にして普通の武器では傷もつかない鎧ごと切り落としたのだ。そして今、自分がカナタに攻撃を加えれば反撃を食らう。その反撃は間違いなく致命的なものだ。それを理解してか誰も動けなかった。

「腕がぁああああ… 私の腕… クラル! は、早くヒールを! クラル!」

 ヒーラーの名を叫び、ようやくヒーラーが我に返って治療する。痛みはすぐに消えるが、腕は元には戻らない。

「次は腕だけじゃ済まないよ。どうする? まだ続ける?」

 高レベルの冒険者として、こんな小僧にしかもレベルが不明の相手に尻尾を巻いて引き下がるのは耐え難い。しかし…隠していた奥の手はおろか、ご自慢の魔法武器まで破壊され、あまつさえ腕を切り落とされてしまった。そして周りの仲間も完全に戦意を喪失してる。

 シュトルムは混乱していた。レベル30以上の上級冒険者のパーティーがたった一人のよくわからない小僧に撃退されてしまった。この現実が受け止められない。

 どうしてよいかわからないリーダーに代わり、アドンがシュトルムをなだめ、皆に引き上げるように促す。そしてすごすごとその場を去った。彼らが引き上げるときに、カナタは「次はない」と釘を刺すことを忘れなかったが、彼らは仲間のハズのディールとシュトルムの腕を忘れていってしまった。

「しかたないな…。このまま寺院の前に放置するわけにもいかないし…」

 カナタはそれらを回収し、寺院に戻った。

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