第一章 驚異のビギナーその3
オンドール村は村民100人位の小さな村である。薬草や野菜を育て街に売りに来るのを主な産業としていた。その村にゴブリンが現れるようになったのは一ヶ月前だ。
ゴブリン単体はそれほど脅威にならない。頭も悪いし、動きも鈍い。屈強な農民であれば余裕で追い払える。しかし、複数体現れると話は別だ。今の所大きな被害はでていないらしいが、ギルドに依頼を出してからそこそこ時間が経っている。状況が悪化していなければな…とカナタは思った。
カナタは村が一望できる丘まできていた。そこで異変を察知する。村に火の手が上がっているのだ。カナタは馬を走らせ、村に急行した。
村は柵で囲われていたが、ところどころ破損しており、何者かが押し入ったことは明白であった。彼は馬を降り村の中へ駆け入るといきなり緑色の子鬼を確認する。ゴブリンだ。この村はいままさにゴブリンの襲撃を受けていたのだ。すぐにカナタはダガーを抜き、ゴブリンに斬りかかった。
彼らの倒し方は熟知している。動きは[仮初の世界]というゲームの中と全く同じである。魔物は魔物の動きしかできないというのは間違いないようだ。
殺されたこともわからないくらいの手際の良さでゴブリンは倒れていく。カナタが周りを見回すが村人の姿はない。しかし、ゴブリンがまだここにいる所をみるとどこかに立てこもっているか、未だ戦っており、生きている人がいることは間違いない。
物陰に隠れていたゴブリンがカナタを襲う。その攻撃をさらりとかわし反撃。ゴブリンは大出血して絶命してしまった。
「不意打ちのやり方もゲームとまるで同じだな」
村の中央に近づきながら目についたゴブリンを次々に始末していく。こちらを見ればゴブリンは勝手に寄ってきてくれる。倒すのは楽であった。
村中央に来たとき、ひときわ大きなゴブリンを見つけた。ゴブリンオーガである。普通のゴブリンの身長は1mもないが、ゴブリンオーガはゆうに3mはあった。村の中央にある教会は避難所として何重もの柵に囲われており、相当に補強されていたので、ゴブリン達は攻めあぐねていたのだ。
カナタはその背後から襲いかかりゴブリンを始末していく。完全に状況は逆転していた。正体不明の強敵が現れゴブリン達は浮足立つ。
ゴブリンオーガがカナタに気がつき咆哮を上げながら突進してきた。彼はゴブリンの正面に立ち動かず攻撃を待つ。手に持った巨大な棍棒をカナタに向けて振り下ろすが、あっさりかわされ、懐に入ったカナタはバフォメットと戦ったときのように、ダガーで数回きりつける。するとバフォメットのときと同じように傷が勝手に裂け、大出血を起こし自分の大量の血液の中に倒れた。
その攻撃でゴブリンオーガは絶命。一部残っていたゴブリンは大慌てで逃げ出す。その様子を教会の中から見いた村人達が顔を出した。ほとんどの住人はここに逃げ込み、無事であった。村の家屋はずいぶん被害を受けていたが、ともあれ戦いは終わった。
「本当に助かりましたよ! 感謝します!」
村長である教会の牧師から手をとり感謝された。
「それにしても驚きました。まだお若そうなのに誠にお強い! レベルはいかほどで…?」
ここで正直に話すと面倒なのでごまかすカナタ。自分のステータスを隠すのは重要情報を漏らさないことと同じなので牧師はあっさり納得してくれた。
「それにしてもギルドで聞いていた話とは随分状況が違いますね。何かあったのですか?」
その質問に牧師はバツの悪い顔をする。
「実は…村の防備や補強を見てもおわかりかと思いますが…、ゴブリンが出没するようになった…ではなく、ゴブリンの襲撃が度々あったのです…」
こういうことはよくあるのだ。金がなく、状況を甘く見積もった依頼を出すということは。安い依頼はこれがあるのでベテランほど敬遠する。もっとも、高額は高額で訳ありは普通にあるのだが。
カナタはため息をつく。しかし、わからないでもない。この村の財力ではあの襲撃を冒険者に頼むのは無理がある。本来なら領主に願い上げる案件だ。だが、この村は領地の境界が曖昧な場所にある。例のビフィル伯爵と城塞都市メルンを収めるオルソ伯爵。それに辺境にはほとんど関知しないほど広大な土地を治めるアディエ侯。この村はそれらの境界近くにあるのだ。
なので願い上げてもこのようなメリットの薄い寒村は、他者に押し付けて放置される。自治体は自ら守るか冒険者に頼むかしかない。本来、ギルドはそのためにあるのだが金銭的な要件を無視することは流石にできない。
(そういえば[仮初の世界]でもそんなイベントがあったな…。でもこちらの世界では襲撃を防いで終わり…というわけには行きそうもないが)
「…それで…報酬の方ですが…誠に申し訳ないのですが、ギルドに提示した金額でお願いいたしたいのですが…」
牧師は申し訳無さそうに言う。カナタとしては別に金はどうでも良いのだが、このことがギルドに知られると、賠償金でも払わない限り二度と仕事を受けてくれなくなる。そうなるとこの村は今後、問題が生じた場合自力解決しか手段がなくなってしまい結果どうなるか容易に想像がつく。
「まぁ、今回はアクシデントのようなものですからしかたないですし…乗りかかった船です。ゴブリン討伐は最後までやらせてもらいます」
「あ、ありがとうございます!」
牧師は伏して礼を言った。
(本当はよくないんだけどな…こういうの…でも…まぁ、初心者がやったってことで許してもらおう)
村人は再びの襲撃に備えて外壁の修復を始めていた。カナタは村の周りを一回りし辺りを調べる。どうやらゴブリンは村の東、ビフィル伯爵の領地の方向から来たことがわかった。ただし領地といっても明確な境界線があるわけでもないので、どこからが領地かは正確にはわからない。たぶん、領主なりその部下が「ここは領地だ」といえばそうなる。その程度の境界であった。
東の山を眺めていると突然一人の獣人が現れた。
「あんた強いな。見てたぜ。レベルはいくつだ?」
なんとその獣人は今朝子供を救った女性だった。背が高くスラリとしている。顔や身体は人とほぼ変わらないが、猫のような耳を頭に生やしており、尻尾が生えていた。耳に特徴的な模様があるのでカナタはよく覚えていたのだ。人間の年齢だと25歳くらいに見える。スレンダーな美人であった。
(偶然か? それとも何かあるのか?)
カナタが訝しく思い黙っているとスタスタと近づいてきた。
「おいおい、別にとって食おうってわけじゃない。なんだ? 獣人族は珍しいか?」
「そういうわけじゃないけど、今朝君をみかけたから、世の中は狭いなって思っていたんだ」
「今朝?」
「通りで子供を馬車から救ったろ?」
「ああ、あれか…なんか恥ずかしいところを見られちまったな…」
「恥ずかしい? そんなことはないだろ。感心したよ。僕も気がついたがとても間に合わなかった」
さらに恥ずかしげに顔をポリポリとかく仕草をする。尻尾が左右に大きく揺れていた。獣人は存外感情が表に出がちだ。
「で、僕に何の用だい?」
「そうそう、あんたあの山に行くつもりか?」
「まあね。ゴブリンの巣があるかもしれないからね」
「なら俺も連れてってくれないか? きっと役に立つぜ」
「何が目的なのかわからないな。ギルドの依頼で動いているようにも見えないし…。君は何者だい?」
「俺はコーシカ。一応、冒険者だ。たしかに今回はギルドの依頼じゃないけど…ちょっとしたお使いでね。あの山の頂上にいる爺さまにお届け物をするんだけど…一人じゃちょっと心もとない…なので一緒に行けるヤツを探していたんだ」
鑑定スキルで見ると彼女のレベルは24。ここらへんの冒険者としてはかなり上等な方だ。どんな戦い方をするかわからないが、先程のゴブリン襲撃なら一人で駆逐させるくらいはできるだろう。そんな猛者が不安がるというのはいささか腑に落ちない。
(バフォメット並にヤバいやつがいる情報でもあるのだろうか?)
「なぁ、良いだろう… なんだったらサービスするぜ」
コーシカは胸を強調するポーズをとった。形は悪くないが、ぶっちゃけそんなにはない。見た所Bカップといった所だ。うちにいる女神様はHカップはあるだろう。いやそれ以上にそういう方向で籠絡されるほど中身は若くはないし、なによりコイツは怪しい。
「そういうサービスはいらないから、もう少し君の持っているあの山についての情報がほしいな」
「にゃっ! …わ、わかった…ただ俺も知っていることは少ないぞ」
誘惑を退かれたことに少しショックを受けるコーシカであった。
次の日、カナタはコーシカと山に入ることにした。
山はそれほど高くはない。直線距離で5キロも歩けば頂上に達するだろう。しかし、ほぼ人の手が入っていないのでそこを踏破するのはなかなか大変である。
「なぁ、カナタ、お前本当はレベルいくつなんだ?」
「昨日も言ったように秘密だよ」
相手の正体がよくわからない上、牧師や村の人に知られると色々面倒くさそうなのでレベル1なのは秘密にしている。コーシカは鑑定のスキルですでにカナタのレベルが1なのを知っている。が、当然のように全く信じていない。ローガンやベルモンドと同じようにフェイクを使っていると思っているのだ。もちろんギルドの指輪は正面を手の内側に向け、数字を隠している。
「それよりこっちの方面にゴブリンの匂いがするというのはホントか?」
「間違いない! 俺は鼻が利くんだ。な、俺を連れてきて良かったろ」
たしかに便利だとは思う。当初は足跡を追うつもりだったが、コーシカが先導してくれるのでどんどん進める。
「ここを登れば周りを見渡せるぜ。行こうぜカナタ」
カナタは呆然とした。山の中腹にそびえ立つほぼ直角の崖だ。高さは20メートル位だが、登るとなると道具が必要になる。
「なにしてんだよ。行くぞ」
そう言うとコーシカは上り始めた。強力な筋力と瞬発力でサクサク登っていく。さすがレベル24だ。レベル1で肉体的には普通の人と変わらないカナタには真似ができない。もちろんカナタは普通の人と違って瞬発的な持続力には制限があるものの、行動の持続力に対する縛りはない。つまりずっと歩いたり、登ったりはできる。これは大女神マジェスタから与えられたスキルの一つ[
「無理だ。僕は回り道をするよ」
「おーい、見晴らしいいぞー」
能天気なコーシカの声が聞こえる。カナタは崖にそって獣道を黙々と進んだ。
「なぁ、カナタ。おまえやっぱ変わっているよな。あれだけ強いんだからあんな崖楽勝だろ。それに休みなしでここまで歩くのって普通の人間…レベル1にゃできないしな…で本当のレベルはいくつなんだ?」
結構、しつこい。猫型の獣人族の特性だろうか。
「無駄話はいいから、ゴブリンの巣はまだなのか?」
コーシカが口元に指をあて「静かに」とジェスチャーする。
彼女の視線の向こうに、深い緑に混じって薄い緑が動いているのが見えた。ゴブリンである。
「あの洞窟が根城みたいだな…」
「そうか…じゃ…」
カナタは背中の荷物をおろし乗り込む準備をする。しかし、その途端洞窟の中からゴブリンが次々と飛び出してきた。こちらに気がついたのかとも思ったが、様子がおかしい。何かから逃げてるようだ。
洞窟の奥からムチのようなものがゴブリンを捕らえ再び洞窟内に引きずり込んだ。そして逃げ出したゴブリンを追うように洞窟からは、10mはあるかと思える巨大な2つの頭を持ったトカゲが現れたのである。そして逃げ惑うゴブリンを次々に捕食していく。
「うわ…なんだあれ…」
コーシカが呻く。
「月光トカゲだな。地中に住んでいて身体が発光する。身体のサイズの割りに動きが素早く、獲物を舌で捕らえて丸呑みにしてしまう肉食のトカゲだよ」
「よく知っているな。カナタ、博識! で、どうすれば倒せるんだ? っていうかあいつ倒せるのかよ」
「ちょっと時間がかかるかな? 結構体力あるんだよなアイツ」
「倒せるのかよ!」
「コーシカはここで待ってて。それと、ゴブリンの残党がいたら始末しておいてくれると助かる」
そう言い残すとカナタは月光トカゲに向かった。
すぐに月光トカゲはカナタに気がつき舌で捕食しようとする。カナタはそれを来るのがわかっているかのようによけ、すぐに懐に飛び込む。
「なんだあれ、今のを避けるかね」
コーシカは目を丸くする。その動きは動体視力の良い獣人の目にも、どうかわしたのかまるでわからなかった。レベルの高さ以上に俊敏な獣人の常識的にも月光トカゲの舌の動きをかわすのは容易ではない。しかも間合いを詰めての回避だ。
(何かのスキルか? 見たことも聞いたこともない…見当もつかないけど…)
これはカナタのスキル[
カナタはすぐにダガーで斬りつける。巨大な月光トカゲのした顎に無数の傷がついた。そして、その傷が勝手に広がり大出血を起こす。
[
どちらも前世のゲームにおいて追加されていた要素なので、この世界では例外的なスキルである。この前世のゲームから引き継ぎ、大女神マジェスタが与えた能力。このスキルこそがカナタの強みというわけだ。無論、スキルだけに頼っているわけではない。そのスキルを活かすための熟練と情報の蓄積が彼の本当の強さなのである。
動きは全て見切っており、月光トカゲはただ切り刻まれるだけとなった。
「おいおい、マジかよ…あんな戦い方見たこと無いぜ… コイツ…想像以上にヤバい冒険者かもな…」
コーシカは呆然とする。そして同時に背筋に寒いものも感じていた。時間がかかるとカナタは言っていたがそんなこともなく、数分もかからず月光トカゲは息絶えた。以前、カナタが[仮初の世界]で戦った個体よりレベルが低かったのだろう。それでもレベル40はある怪物だった。
「コーシカ! ゴブリンはいないか?」
はっとするコーシカ。急いで周りを確認する。するとすぐに見つけた。やはり獣人族の目は鋭い。そこには三体のゴブリンがいたが、コーシカは一足飛びに駆け、一瞬で屠ってしまった。ゴブリンのレベルは良いとこ5程度。コーシカが力任せに殴って瞬殺してしまった。
「終わったぜ! 他には見えないからもういないようだな!」
カナタはコーシカの脚力と腕力に感心した。
(あの跳躍… レベル1の自分ではとても真似できないな)
カナタとコーシカは洞窟内を確認。全てこのトカゲが捕食してしまったらしい。トカゲの消化液は強力なので飲み込まれた連中はもうドロドロになっているだろう。魔石を取り出すとき胃袋は傷つけないよう気をつけた。グロいものをみるのは誰でも嫌なものである。
「すげぇなカナタ。びっくりしたぜ。なんだよあれ。俺でもできるかな」
あの攻撃と回避はマジェスタ様から頂いたスキルであり、前世のゲーム由来の戦い方である。当然、そんなものは真似できない。なのできっぱり「無理」とカナタは答えた。さらにコーシカはスキルについて根掘り葉掘り聞いてくる。カナタはそれには何も答えなかった。先ほどの戦いを見ているせいか、その憮然とした態度にさすがのコーシカも口を閉じざるを得なかった。
「それでコーシカの目当てである爺さんのいる場所ってここから近いのか?」
「ああ、多分、この真上だと思う」
彼女が指差す先には断崖絶壁の岩肌が見える。高さはおそらく100mはあるだろう。
「これを登るのか?」
「うん」
(コーシカを置いて下山したい気持ちになってきたな…)
「周り道はないか… しかたない…コーシカ僕はここで手を引くよ。後はよろしく」
「にゃ! そんな殺生な。最後まで付き合ってくれよ… なんだったらサービ…」
「サービスはいらない。それにこの断崖絶壁は僕には登れないから」
「ホント変なヤツだな。何かに極振りしたステータスでももっているのか? こんなの楽勝だろ。…ま、しかたない。俺が背負っていくから行こうぜ! 頂上にさっきの魔物みたいのいたら俺じゃ手にあまる」
レベルの高い魔物がいるならカナタとしては美味しい。その言葉に乗っかり、コーシカに背負られて頂上に向かった。数分程度で頂上につく。力強いコーシカの登りっぷりにはカナタも感心した。
[仮初の世界]に居たときはルートが決められてたからこんな無茶な踏破は不要であったし、ゲームシステム上不可能であった。だが現実世界であるここではこういうルートを逸れた横紙破りなことができる。当たり前の話だが、ゲームと現実とでは全く別ものなのだ。
(レベル1でも戦えるけど、こういう方面の労力を考えるとレベルアップが必要かもな)
山の頂上にポツンと石造りの建物があった。カナタは周りを見回し、魔物がいるか確認する。しかし何もいない。カナタは少しがっかりしたが、それで気づいたことがあった。ここにはこの頂上に来るための道がないのだ。
「なあ、ここに来るための道がないようだけど…。ここに住んでいる爺さんってどうやって資材を運んでいるんだろ?」
「たぶん、アレかな」
コーシカが指差す。そこにはカナタ達が登ってきた方向とは真逆の方向に伸びるケーブルがあった。
「ロープーウェイか…」
「なにそれ? カナタの国の呼び方? 俺らは索道って呼んでるけど。ロープを空中に張って、それに滑車を付けて移動させる。大きなものなら人も運べるぜ」
「意外と科学的だな…[仮初の世界]にはなかった技術だ…」
「かり…そ? なんだって?」
「いやなんでもない。それで、あの先はなにがあるんだ?」
「知らない。ロープの状況を見て随分前から使われなくなっているようだし…」
「じゃ、コーシカの目当ての爺さんって…」
「もうダメかもねー」
「軽く言うなぁ」
二人は建物の中に入る。案の定、一人の老人の遺体があった。思わず手を合わせるカナタ。それを無視してコーシカは家探しをはじめている。部屋はホコリが溜まったおり、少なくとも人が出入りしなくなって、数年は経っていそうだ。
その中を忙しそうに動き回るコーシカ。そして一冊の本を見つけた。
「よし、任務完了っと」
「おい、ちょっとまってくれないか? コーシカ、君はたしかここの爺さんに届け物があるって言ったよね。なんでその爺さんをほっておいて、かつ物を取って帰るんだ? 何か隠しているだろう!」
「べ、べ、別に…にゃんも隠してないぞ」
尻尾が激しく揺れている。口も回っていない。明らかにおかしい。カナタはダガーをスラッと抜く。コーシカは尻尾を爆発させてビビる。
「わかったにゃ! わかったから落ち着くにゃ!」
にゃと語尾につくくらいビビるコーシカ。どうもこちらが彼女の地のようである。
「コホン…、ほんとはそこに遺体になっている爺さん。元宮廷錬金術士バンセンさんを救出するのが俺の任務だったんだけど、もし、救出が間に合わない様なら記録を探して持ってくるようにと依頼されたんだ」
「ここに監禁されていたのか?」
「そうみたいだね。でも何の目的で監禁し、ここで何をしていたかはわからない…というより知らない方が良いってヤツだな。なので俺も何も知らないし、詮索しない。依頼を受け救出か記録…つまりこの日記の確保だけをして報酬をもらい…後は一切忘れる…そんなところ」
「で、依頼は誰から?」
「言えるわけないだろ」
「ふうん」
再びダガーを引き抜きコーシカに近づく。
「ま、待つにゃ! ここで俺たちが諍いを起こしても誰も得しないにゃ!」
尻尾をたぬきにしてビビリまくるコーシカではあるが、しっかり逃げる方向は定めていた。右後方の窓から飛び出て逃げる気だ。あの脚力で逃げられたら絶対に追いつけない。なのでカナタは追求を止めた。秘密の任務なのだろう。これ以上クビを突っ込むのも、彼女と揉め事を起こすのも得策とは言えない。
その後、下山しカナタは村へ、コーシカは謎のクライアントの元へ向かった。
(なんかただの魔物討伐から胡散臭い仕事にすりかわっちゃったな…。今後の活動に響かなきゃいいんだけど…)
心配するカナタであるが、それはすぐに形になってふりかかる。
村の教会に行くと牧師が青い顔をしてカナタを迎えた。なんでも都市メルンから役人が押しかけており、カナタを逮捕すると言っているそうだ。
(早いなぁ…思ったよりやっかいなことに巻き込まれたようだな…)
カナタはヤレヤレと思った。
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