第72話 龍呼ぶ妃(四)

 馬で追いついた青海は淡々と嶺上とのことの顛末を報告する。


「嶺上と私とでもみ合っていたところに、令王たちがやってきましたのでね。そのまま嶺上を引き取ってもらいました。無事に龍が呼べたようですね。良かったです」


「あ、あのね! 青海!」


 こんな声でいいのかな。芙貴は自分の話が青海を驚かせないように、そして心配させないように自分の口調を整える。


「私が宝珠で龍を呼んだから、私が『龍呼ぶ妃』ってのになっちゃったのよ。だから……悪いけど青海の結婚より先に私はこのまま東宮様に嫁ぐわよ」


「はあ……」


 青海は馬にまたがったままだ。初めて出会ったときのように無表情なので何を考えているのか分からない。予想外のことに固まってしまっているのかもしれない。


 佳卓が芙貴を乗せた自分の馬を青海の馬の近くに寄せる。それで芙貴も声を張り上げなくても済むようになった。


「東宮様ってどんな方だろうって菫と話したことあるんだけどさ」


 青海はまだ事の成り行きがのみこめないのか、無表情だ。


「青海がお仕えしてるんだから、そりゃ文武に優れた方なんだろうと思うのよ。しかも完璧主義の貴方が傍にいたんでしょ。そんな貴方ににねちねちちくちく文句言われてそりゃいろんなことがよくできる人なんだろうと思うわ。そんな人の妻ならなってみたいし、青海だって安心するでしょう?」


 それにね、と芙貴は東宮のお傍に上がったら何をするべきなんだろうと考えていたことを彼に告げる。


「東宮様は青海と一緒にいたんでしょ。私と出会った頃の青海のように、今の東宮様も他人の欠点にうるさい性格をしてるんじゃないかと思うの。だったら、私が妃になったら、東宮様に人の上に立つ人間には大らかさが必要なんだって教えてあげる」


「そうですか……」


 佳卓が肩を震わせて笑いをこらえながら、脚を馬の尻に回して自分は地面に滑り降りた。青海に向かって「他人事ではございませんぞ」と声をかけると、次に地芙貴に向かって下から両腕を伸ばす。


 馬を降りろという意味だろうと思って芙貴がその腕に捕まると、佳卓は芙貴を抱き取った。そのまま地面に降ろされるのかと思ったら、佳卓は芙貴を馬上の青海に渡そうとする。


「貴方様の妃をお連れしました。ここからはお二人で同じ馬に乗られるのがよろしかろう」


「はい?」


 芙貴が問いかけたのは佳卓に対してだが、答えたのは馬上の青海だった。


「あの……芙貴さん、実は私が東宮なんです」


「はあ?」


「日立新帝がお立ちになったので私が東宮になったんですよ、正式な立太子はまだですが」


 なんですって。それはいったいどういうこと?

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