第65話 宝珠(三)
剣がぼうっと青白く光る。青海が片手で柄を握るとさらに明るく。両手で構えるともっと明るく。まるでその手に取られるのを太刀が喜んでいるように、神々しい光が燦然と輝く。
──何が起こってるの?
芙貴も倫道も、そして媛や嶺人の若者も固唾を飲んで見守るなか、青海が佳卓のように椅子を蹴って飛び上がった。東国で剣を扱い慣れている彼もまた、軽やかに刃を煌めかせながら縄に振り下ろす。ひゅっと空気を切り裂く音が高く鳴った後。
──ぱきーん
何か、薄くて硬いものが割れる澄んだ音が響いた。縄はすっぱりと断ち切られ、両端から下にだらりとぶら下がる。
床に飛び降りた青海に「どうです?」と問われた媛が、そして倫道が互いに駆け寄った。媛は難なく自分の部屋を出ることができ、そして倫道の胸に飛び込む。
「ええと。青海なら天叢雲剣を使えるのね。でも、それってどうして……?」
七條家だって帝室に連なりはするが、佳卓と比べてこうも違うのはどうしてなのか。
「それは……今はなんとも。それより、嶺上に気づかれる前に龍を操る術を見つけなければ」
倫道の腕の中から、媛が弾かれたように顔を芙貴たちに向けた。
「山上の『龍ヶ淵』の向こう岸に祠があります。私、比瑛の山の運営の仕事でどこに行ったかくまなく思い出していたんですが、この二年の間、あそこにだけは行ったことがありません。何かあるならあそこだと思います」
「他に心当たりは?」
「比瑛の山のどこに今何があるか、その祠以外は私が全て把握しています。その祠しか使い道の分からないものはない……」
「分かった。じゃあ、その怪しい祠に行ってみよう!」
「いいえ……」と媛が首を振った。「あそこに行くことはできません」
「行くことができない? なんで?」
「龍ヶ淵の向こう岸に渡る手段がないんです」
「嶺上はどうしてんの?」
「分かりません。ただ、まだ龍ヶ淵の水位が低かった頃には対岸への吊橋がありました。今でもそれは水の中に残されています。父が結界を自在に造り出せるなら、その吊橋の両側の水をせき止めて橋を使えるのかもしれないと思います……思うだけですけど」
芙貴は額に手を当てる。
「そうだとしても、それは嶺上にしか使えない手だよね……。その橋を私たちが渡るにはどうしたらいいんだろう……?」
佳卓が「水位を下げればいい」と短く言いきった。
「それ自体は簡単だろう? さっき明らかになったように青海殿は天叢雲剣で結界を破ることができる。堰を切ることも可能なはずだ」
「やってみましょう」と青海が応じた。
「分かったわ。じゃあ青海たちはここから馬を走らせて堰を切って。私たちはその間に磐舟で山上に向かう。水位が下がったところで、吊り橋を渡ってその祠に行って龍を操る宝珠なりなんなりを探す」
芙貴の「よし、じゃあ行こう!」の掛け声と共に、芙貴と媛、倫道は磐舟の池に駆け出し、青海と佳卓は堰に向かって馬を駆った。
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