第5話
食堂には作業服を着た人々が長机に座って、各々の食事を嗜んでいた。こんな豪邸だったが、雰囲気は町工場にある狭い食堂の雰囲気を連想した。
「ここにいる人たちは何か仕事してるんですか?」
「そうですね」沖元は腕を伸ばしながら言った。案内してくれるようだった。「皆さん、額に入れ墨があるうちは表の仕事ができませんので、ダイノウが秘密裏にしている仕事をしています」
沖元はすぐに胸元で手を振った。
「秘密裏と言っても犯罪行為ではないのでご安心ください。教材の出版や校閲など、密かに工場を建設し、表では発覚しないようにしております。他社に依頼するよりも安価になるので一石二鳥なんです。それに、入れ墨が見えなくなるまで治療が終わった方は社会復帰していただくこともできます。働いている間の給料も差し上げます。正直高い額とは言えませんが……」
人々の額を見ていると、内海と同じくらい濃く残っている者や薄くなっているものがバリエーション多く存在した。それによって治療の進み具合がよく分かった。
沖元が食堂の前に立ってメニューを差し出してきた。
「今日は私が奢りますのでご安心ください」
遠慮すべきところだったが、空腹が限界を超えている。親子丼の大盛を注文した。沖元は店員に一万円札を出し、細かいおつりを受け取っていた。
食事を食べ終えたあと、沖元に案内されたのは畳の大部屋だった。旅館にあるような大部屋でここで人非人たちが雑魚寝をしているようだった。
「なかには働かないでゆっくり過ごす方もいらっしゃいますが、社会復帰を見越してお金を溜めるために働く方もいます。内海さんはどうなさいますか?」
「何でもやります」
内海は心底嬉しかった。お金を得られることよりも、無差別に誹謗中傷して人権を剥奪される過ちを犯しておきながら優しく扱われ、必要とされていることが。
「僕にできることがあれば何でもやります」
内海はそう答えていた。
「わかりました。それでは今日はゆっくりとおやすみになってください」
沖元は目じりに皺を蓄えたまま扉から出ていった。
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