第51話 我が儘な出頭命令からの高らかな悪行宣誓
「ハニガン、その女は誰だ?」
女王の顔は猿のお尻より真っ赤です。
部屋も真っ赤だったし、赤が好きなんだなあ。なんて狸は呑気な事を考えます。
今日はあれやこれやとめんどくさいので、ちゃんと王城に出頭しました。
前回は『
もちろん、妻であるキンヒメは同伴しています。
あらかじめ妻も同伴するって伝えたはずなんだけど、椅子が用意されてなかったので、僕とキンヒメで椅子を半分こして座っています。
パーティには配偶者の同伴が必須って前世のどこかで聞いた事があるし、僕はキンヒメと離れたくないから仕方ないよねえ。女王に対して無礼とか言われても、僕たぬきだし、そんなの関係ないのよねえ。
そうそう。
もちろん僕の妻の美しさには王城の誰もがため息をもらしたのは言うまでもないんだけど。
なぜか、女王のため息だけは、クソでかため息で、感嘆というよりは怒りとか呆れのそれだったんだよねえ。
その後に、その女は誰だ、発言なワケです。
仕方ないお答えしよう!
「妻ですよう。あ、あと、僕は平民になったのでハニガンの名は捨ててリントと名乗っておりますので、今後はリントとお呼び……」ください。
って言い切る前に僕の言葉は女王の悲鳴にかき消された。
「つ、妻ァア!?」
「は、はあい」
びっくりしたあ。いきなり叫ぶんだもん。顔も赤いし、もはや猿じゃん。
どうしたんだよう? と女王を見ると。
震えている。
ワナワナと震えている。
「どうしたんです? 女王?」
聞いても答えない。
死んだかな?
状況を確認するために周りの従者の顔を見ると一様に「あちゃー」って顔してる。
一人の侍女だけなんかキラキラ楽しそうな顔で僕ら三人を見てるけど。
うーん。わかんないからオロオロしとこ。
「ハニガ「リントです!」う、リント、そなた結婚したのか?」
「はい、しましたよう」
「いつじゃ?」
「へ? いつだっけ? ねえ、キンヒメいつだっけ?」
「リントがダンジョンに行ってすぐですよ。ダンジョンで死にかけていた私を救ってくれて、それで結婚してください、はい、喜んで、ってなって結婚したんでしょう?」
そういう事になった。
キンヒメの提案である。流石に狸同士の婚約者で、お互い毛の匂いを嗅いだひと嗅ぎ惚れで、初めての出会いで大蜘蛛から命を救った仲です。なんてバカ正直に言えやしないので、こういう馴れ初めにすると事前に決めていたのだ。僕の妻、用意周到だよねえ。
ダンジョンでの出会いからの一目惚れね。忘れないようにっと。
「ああ、そうだったそうだった。僕も一目惚れだったよう」
ほんとはひと嗅ぎ惚れだったけど。
良い匂いだったなあ、と思い出すと、思わず、てろんと表情がとろけてしまう。
そんな僕を見て女王はますます顔を赤くする。
「……そなた、結婚した馴れ初めも、その時期も覚えておらぬのか?」
「ちょっと、ど忘れしちゃったんですよう」
「ふむ、ど忘れ、な。おい、お前記録しておけえ」
僕の言葉を繰り返した後、後に控えている事務官っぽい人に、何かを記録するように命じた。
事務官さんは慣れた様子でメモとペンを取り出しスラスラと書き込んでいる。
なにを記録するだあ?
「いやいやちゃんと覚えてるんですよう。女王の前で緊張しているから、ど忘れしちゃったんですって」
「妾の前で緊張した、と。おい、これもじゃ」
一つ頷き、また事務官さんがスラスラと記録する。
なんか雰囲気が剣呑。
「えーっと、これはなんなんですかあ? ま、それは置いておくとしても、出頭命令の理由もお聞きしていないんですけど、まずはそれを教えてくれません?」
「妾に説明、しろと? これも追加じゃ」
事務官さんはペンを止めずに記録をしている。
周りに控えている人間は既に誰も笑っていない。キラキラしてこちらを見てた侍女も、お前終わったな、みたいな顔でこちらを見てくる。
いやー、やな予感がしますね。
こんな時は。
「あーっと、特にご用事がないなら、そろそろ僕らはおいとまさせて頂きますねえ」
逃げるに限るよう。狸は面倒ごとからは逃げるの一手だよねえ。
僕が腰を浮かせると。
女王の方が先に椅子を跳ね飛ばすように立ち上がった。
そして僕とキンヒメを真っ赤な顔で睨みつけた後。
怒鳴るように、『断罪』してきた。
「御前逃亡罪! 女王強要罪! 御前緊張罪! 婚姻健忘罪! これらの罪により! 冒険者リント、並びに……そそそ、その、つつつ、にゃあああ! 隣の女のキンヒメ、併せて投獄じゃ!」
は?
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