第46話 狸をバラそうとしたら何故かバラ咲きそうだ
今回の合戦では全く得るものがなかった。
やはり争いは何も生まない。
むしろ余計な物しか生まない。
例えば。
「アニキー! 待ってくれじゃあ! アニキー! 舎弟にしてくれるまで離れんじゃあ!」
背後から熱くるしく僕を追いかけてくる声。
ダンチンロウである。
徹底的にやりこめて、わからせてやった結果。
デレた。
どうやらラクーンDZVでは一番強い奴が群れの頭目というにが絶対らしく。気絶から目覚めて以来、こうやってずうっと僕の背中を追いかけてくる。
彼のそんな盲目的とも言える熱情を僕は背中に浴び続けた。
それには、憧れ、羨望、畏れ、思慕。色々な感情が混ざっているのがわかる。
最初は嫌だったそんな思いを背中に浴び続けている内に、いつの間にか僕の中にはそのねっとりとした情念を心地よく感じる部分ができはじめぇ……
「めぇ……て。っじゃないのよう! ねえキンヒメ? 横で変なこと言い出すのやめてえ!?」
「えー。何か目覚めませんか? 物欲しくなりませんか?」
「いやいや、そういうのいらんいらんのよう! もう! キンヒメは僕の奥さんでしょう? もし本当になったらどうするのよう!?」
「ふふ、ならないのは知ってるからやってるんですわ。リントは私だけが好き、でしょう?」
いたずらな微笑み。
これされたら何もいえなくなっちゃうよう!
「う、うん! もちろんだよう!」
「だからこうやって揶揄えるんですよ?」
「もう、揶揄うのはやめてよう」
僕はキンヒメ一筋なんだからさ。
◇
という感じで。
争いは何も生み出さず、ゴミばかりが量産される。
この事実を認識してもらえたと思うんだけど。
今回の合戦の結果。
狸社会はこんな風になった。
ダンチンロウが無理やり、僕に弟子入りをしてきた結果。ラクーンDZVはラクーン808の傘下に入った。一応、ラクーンDZVの名前は残っているし、彼らの伝統や変化術などは固有種として残していくが、傘下に入ったため、三大ラクーンからは格落ちとなって、坩堝の森の狸の群れは二大ラクーンへと変更になった。
ラクーン808。
ラクーン18GLD。
この二つがその二大ラクーンなんだけど。
ラクーン808の次期頭目である僕と、ラクーン18GLD唯一のヒメであるキンヒメ。
僕らは夫婦なのである。
つまり実際はこの二大ラクーンも同世帯という事になる。
あれ? 三大ラクーン統一されてない?
僕ら二人の父たちは。
「ガハハ! 狸王国の完成じゃのう! なあコンゴウのジジイ!」
「誰がジジイだ。わしはまだ現役じゃ。ふむ、じゃが、狸王国の完成はあながち間違いではないな」
なんて無責任な事を言っている。
だが考えてみてほしい。
怠惰な狸に国家運営などできるわけがないだろう。
試しにおやじとコンゴウさんに聞いてみた。
「じゃあ、国家運営お願いしていいですか?」
「無理じゃあ」
「いやじゃな」
即答だった。
そりゃそうよ。狸だもん。
「そうでしょう? 出来ないでしょう? だったら軽々しく狸王国とか言わないでよう!」
「ガハハ、すまんすまん!」
「まあまあ、婿殿。その話はおいおいじゃな」
いや、わかってるのかな? この大人たち。
まあ、いいか。とりあえず僕は絶対に嫌だからねえ。
と、いう事で。
国家計画は
残る問題はダンチンロウをはじめとしたラクーンDZVの狸たちである。
彼らは武闘派で生まれ育ってきているため、強くなるための努力に余念がない。僕らは彼らより強い。となると彼らはその強さを貪欲に吸収しようとしてくる。
ダンチンロウくらいなら、リキマルを鍛えるついでに、僕が鍛えてもいいんだけど、全員となると。
途端にめんどくさい。
ずらっと並んだ化け狸に武芸指南なんて。
考えただけでも……ぎゃあ! こわあ! 少林寺拳法じゃないんだから!
「と、いうワケで、リキマル。後はお願いね?」
という事にした。
この言葉を聞いたリキマルは。
「俺かあ!?」
と驚いたが、なんだかんだ派閥を作ったり、その狸を鍛えたりする事が嫌いではなかったらしく、ダンチンロウと二人で教えるのなら、と了承した。
え? むしろダンチンロウを嫌がるんじゃないの? って聞いたら。
「あいつはアニキには負けたが……単純な実力で言やあ、俺より強いからよう……俺もあいつの良い所は吸収したいんだよ」
なんと真面目な弟か!
かわいい弟よ!
じゃあ基本は今まで通りで戦闘や変化の術を磨きたい奴らはリキマルが鍛えるって事で。
うむうむ、まるなげまるなげ、っと。
◇
こんな感じで今回のたぬき合戦騒動はカタがついた。
やはり争いは何も生まない。
面倒な事は増えるし。
環境は変わるし。
それに対応するのも疲れるし。
傷つく狸もいるし。
悲しむ狸もいる。
それでも自分たちの大事を守りたい時には戦わなければならない。
ほんとにやめた方がいいと思う。
だから僕はこれから群れの狸たちに、こんな前世の金言を送っていこうと思う。
「けんかはよせ 腹が減るぞ」
で、ある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます