第45話 ぺしぺし、ぺしぺしぺしぺし

 どこが顔かわからない。


 そんな姿で。


 僕は笑う。


「さあ、どこからどう破壊しようか? 当店のトッピングは無限大ですので、どうかお楽しみにい」

 文字通り化け物じみた姿で、金色の金属狸にせまる。

 それに合わせてダンチンロウも尻餅ついた状態で後ずさる。


 二人の距離は変わらない。


「やめてくれえ。わかったんじゃあ。すまん、てめえを舐めちょったんわ謝る! 命は助けてくれええ」

 なに言ってんだ? 謝るとこがずれてるよう。別に僕は舐められたってなんだっていいんだよう。

 それがわかんないって事はわからせが足りないねえ。

「わかってないみたいだから無理だよう。うーん。よし、キメた。君の手足一本ずつ、それぞれお互いに反発する別の属性で、切ったり、溶かしたり、削ったり、破壊したり、しながら、最後は胴体で全属性がぶつかった時に、それらの属性で反発させて対消滅させよう! そうすれば残った胴体と頭がそれに全部巻き込まれて、存在ごと消えちゃうよ!」

 まあ、僕の持ってる属性で対消滅なんて起こせないけども。最後適当に爆発とか起こせばいいでしょう。

 うん、これがいいね。

 後腐れないし。


「は、は? はあ? てめえなに言っとんじゃあ? ついしょうめつ? なんじゃあ?」

「いいよ、どうせ狸には理解できない話だから。ほら行くよう」


 背中から生やした四本の蜘蛛の腕、一本一本に炎、氷、風、酸を生成して、それを魔力によって空中に浮かせる。これを使ってまずは四肢を削いでいくよう。


「さってと、狸忍者の科学実験! はっじまっるよー!」

 鵺に変化した僕の顔らしき所が全て微笑んでダンチンロウを見つめた。


 んー? なんかダンチンロウの様子がおかしいぞ?

 って? え?


「が、ガガガあ……むキュ」

 僕が見つめた先。

 そこには、情けない、声にもならない音未満の、狸の赤ちゃんだってもうちょっと声張ってるレベルの鳴き声をあげている狸がいて。そしてそれは金属の身体に包まれた狸で。つまりそれは金属体のダンチンロウで。

 それが僕の目の前でひっくり返ったと思うと、身体の金属部分が急速にドロドロと溶けだした。


 えー? 死んだー?


 溶けた金属は不思議にも地面に吸い込まれてあっという間に消えて。

 最後に残ったのは一匹の狸。


 それが白目を剥いて泡をふいている。

 まさかの気絶?


「え?」

 嘘でしょ?

 狸寝入りで油断させて、僕に一矢報いるつもりでしょ?

 そう、そうだ。そうに決まっている。


「おい! 起きろ! ダンチン! 狸寝入りなんてバレてんだぞ!」


 声をかけるが起きないどころかピクリともしない。

 これはもはや、本当に気絶しているのか?

 嘘だろ?

 じゃあ僕がこんな気持ち悪い姿に変化した意味はどこだよう!


「ほれ、早く起きないと! 大事なキンタが潰れちゃうぞう!」

 でっかめのキンタを蜘蛛の足でツンツンと突いてみる。

 うへえ、ブニョっとして気持ちわるう。

 触らなきゃよかった。


 しかしこれでもピクリともしない。

 これはあ、気絶してると考えていいかも。えーどうしようか? これは落とし所をなくしてしまった。


 ぺしぺし。


 思い悩んでいる僕の背中を柔らかく叩いてくる感触がある。

 なんだこれ? 感触的に狸? いつの間にか僕の背中には一匹の狸が座っていた。

 その狸はどうやらぺしぺしと僕の背中を叩いているようだった。


 なんだ? と、背中の声に意識を逸らせば。


 声が聞こえる。


「リント、リント」


 その狸は叩きながら僕の名前を呼んでいる。

 ふむ、と。

 背中に目を生やして声の主を見る。


 そこにいたのは。


 キンヒメだった。

 かわいい僕のキンヒメだった。

 いや、ぺしぺしキンヒメ可愛すぎん?


「キンヒメ、どうしたの? この姿は気持ち悪いでしょう? それに……蜘蛛の姿も混ざってる……離れてて」

 まだ死の恐怖が残ってるはずだよう。

 ごめんね。こんな姿になって。

「いやです!」

 確固たる拒否。

「ええーなんでえ?」

 教えてえ、おじいさあん。

「前にどんな姿でもリントはリントって前に言ったでしょう?」

「うん……聞いた」

「だから平気ですよ」

 うん。

「そっか、ありがとう。じゃあさ、ダンチンを始末して、すぐに元の姿に戻るから少しだけそこで待ってて」

 さっさとお片付けしてキンヒメと仲良くしようっと。

「リント、もういいんですよ」

「なにが?」

「ダンチンロウはすでに気絶しています」

「でも狸寝入りかもしれないよう」

「彼ら、ラクーンDZVダザブでは軟弱だと言って、狸寝入りの風習を嫌っていますから、その技は風化して存在していません。だからあれは狸寝入りはありません。本当の気絶ですよ」

 ええー。それはそれで情けなくない? 気絶するくらいなら狸寝入りで体力温存して一矢報いた方が硬派だと思うんだけどう。

「でもさあ……」


 落とし所がないんだよねえ。


「リント、間違ってたらごめんなさいだけど。あれは私のために怒ってくれたのでしょう? すごく嬉しかった」

「あ、バレてた?」

 恥ずかしいから言わなかったのに。キンヒメにはバレるなあ。

 ちょっとうれしい。

「ええ……リントは自分の事ではあんなに怒らないから」

「恥ずかし」

「でもここらへんが落とし所ですよ」

「そう?」


 どこら辺で落とすの?

 落ちてる、これ?


「そうですよ。これだけ多くの狸に見られていて、ラクーン808の頭目、ラクーン18GLDの頭目が立会人になって、なおかつダンチンロウのこの醜態。完全に格付けは終わりました。今後一切、ラクーンDZVが我らに因縁をつけてくる事はないでしょう」

「ふーん、そういうもんなのう?」

 忍者の世界とは違うんだねえ。

 あの頃の落とし前って誰かの首だったんだよねえ。


「ええ、お義父様、父上、これでよろしいですね?」

 少し離れた所にいた父、リーチと義父、コンゴウがキンヒメの言葉に静かにうなずく。

「ほらね、リント。ここが落とし所です。いいですか?」

「うん、キンヒメがそういうなら!」

「では、立会人のコンゴウ様! 今回のたぬき合戦の終結をお願いします!」


 キンヒメの言葉に。


 義父、コンゴウがスッと立った。


 まるで威厳そのものがそこに立っているようだった


「此度のたぬき合戦! ラクーン808の完全勝利を告げる!!!」


 その宣言に。


 ラクーン808の狸は高らかに鬨の声をあげるのだった。


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