第41話 コンゴウさん本当コンゴウさん
ラクーンの縄張り手前。
森の中に広がった原っぱで、ラクーン
明らかにラクーン808の劣勢。
血気盛んなラクーン
そんな侵略者。
ラクーン
すぐにわかった。
まさに一目瞭然。
荒々しい姿の化け狸の群れが手に手にのぼり旗を持っており、そこに全てが書いてあった。
キンヒメを返せ! 返さねば狸に阿鼻叫喚を!
我らの嫁を返せ! 返したら穏やかに滅ぼす!
うわあ。こわあ。
対話する気なしじゃないか。
「ねえ、リキマル、あいつらからなんか話って聞けた?」
僕は狼姿で前線に立っている弟のリキマルに問いかけた。
「いや、会話にならねえ。何を言ってもキンヒメさんを返せしか言わねえよ」
そう言ってリキマルは呆れたように首を振った。
はあ野蛮狸は嫌だよねえ。
「そっかあ。勝てそう?」
リキマル率いる808
「いやあ、厳しいだろうな。小隊の奴らを鍛えてはいるが、主に狩りをするために鍛えてるだけだからな。対化け狸となるとビビっちまってひっくり返ると思うわ」
「ま、そうだよねえ。うちの狸は戦争なんてめんどくさい事したがらないしなあ」
さてどうしたもんか。
ほむー。
と思案顔で頬を膨らませていると背後から声がかかった。
「婿殿は出ないのかね?」
お?
この声とこの呼称は?
振り返るとそこには一匹の古狸が居た。
人間で言う眉毛とあごヒゲの部分の毛が長く伸びていて見た目から歴史を感じる老狸。
そんな老齢な見た目ながら、二本足で立ち、スッと背筋は通っている。
未だ現役の化け狸。
「ああ、コンゴウさんじゃないですか! お久しぶりです!」
「とうさま! いつの間に来ていたんですか!?」
意外な登場人物に僕もキンヒメも驚いた。
僕がコンゴウと呼び、キンヒメがとうさまと呼んだこの古狸。
ラクーン
偉い人きたあ。
「おう、久しいのう、キンヒメ、相変わらず可愛いのう」
「いやですわ、とうさま。お久しぶりです」
照れながらも嬉しそうなキンヒメかわいい。
「それに婿殿も息災か? たまにはラクーン
「ええ、また寄らせてもらいます。にしても今日はどうして? 見ての通り、この状況でして……あまりおかまいできないのですが……」
おかまいできない所がちょっと危険ですわ。
「いやあ、わかっとってきたのよう。奴らはワシのラクーンから一直線でやってきたんだからのう」
は?
「理由を聞かせてもらっても?」
「おうよ」
コンゴウが語ったここに至る経緯はこうだった。
ラクーン
もちろんスッパリと断れればよかったのだが、いかんせんラクーン
まあ年に一度くらいこうやってやってくるだけだし、キンヒメは忙しい、化け狸になるために勉強中だ、社会勉強で外に出ている。などと適当に理由をつければ数日で帰っていくため、年中行事として放置していた。
しかし今回は違った。
どこで聞いたのか。
キンヒメがラクーン808に嫁入りした事を聞きかじっていた。
そして事の真偽を確かめるまで帰らん、キンヒメを出せ!
と言い出したらしい。
これにはコンゴウは困った。だってキンヒメはもう嫁に行ってここにはいないし、いないものは出せないし。
面倒になったコンゴウはここで狸の悪い癖をだした。
丸投げ。
どうにかなれ、だ。
「キンヒメはラクーン808に嫁に行った。もういないから帰れ。お前らみたいな野蛮ギャルドな狸にキンヒメをやるわけないじゃろうがあ!」
今までのうっぷんまでこめて言ってしまった。
それを聞いたラクーンDZVの頭目であるダンチンロウは顔を真っ赤にした。
その激情は口癖となった言葉となって吐き出された。
「戦争だ! 戦争だ! 戦争だ!」
その言葉に合わせて野蛮狸の群れが足踏みする。
その言葉に合わせて野蛮狸の群れが唱和する。
森の地面は揺れ。
狸の群れは毛皮の波のようになり。
その野蛮狸の群れがラクーン808へと向かったワケであり。
結果どうなったかといえば、こうである。
うん。
「コンゴウさん?」
「なんじゃな?」
「もう少しうまあくやれませんでした?」
「あー、めんどくさくなったんじゃなあ。仕方なかろう?」
「えー」
「それに婿殿が本気出せばあんなのすぐに片付くじゃろうて」
うん。
そうなんだけどねえ。それだけじゃあだめだと思うんだよねえ。
ああいう輩はさ、個人がやった所で、その個人の不在を狙ってくると思うの。
弱い所を狙ってくる。
僕は自由な狸だ。ラクーン808を留守にする事だってある。
そこを狙ってくる。
だから今回は群れとして勝ちたい。
「リキマル、808
「おう!」
僕の言葉に呼応して、狼姿のリキマルの集合の遠吠えがラクーン808に響いた。
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