第40話 楽々は易々破らるる
お天気の原っぱ。
僕とキンヒメは重なり合ってのびーんとしている。
まさに楽々ラクーン状態。
坩堝の森はいつだってちょうど良い季節。まるで暮らす動物たちを守ってくれているよう。
だから、いつだって狸の夫婦が重なるには良い季節なのである。
ドナルドにキンヒメを紹介しに行ってからは、特にやる事もないのでただダラダラと過ごす日々。実に久しぶりに狸らしい生活をおくっているといえるねえ。ああ、幸せえ。
え? 狩り? 食糧確保? 次代頭目としての責任?
知らない子ですねえ。
というのは嘘で。
すでに食糧の備蓄や生活環境になんの不安もない。
なにせ我らがラクーン808には、リキマル率いる「808
いる? え? そんなんいた? いつの間に?
ってなるよね? 僕もその話を聞いた時にはそうなった。
けど、どうやらリキマルが人間姿の僕に負けた時に、このままじゃいかん! と、ふんどしを締め直したらしく。化け狸になれる狸を募集して、さらに頭数を増やし、厳しい特訓を重ねたらしい。結果、結構な大所帯になってすでに一個小隊くらいの規模になっているらしい。
怠惰な狸がそんな事するう?
だめだよう。
裸一貫狸がふんどしなんて締め直せないし! 狸なら腹叩こう! 狸なら態度で示そうよ!
ま、まあ、ともかく。
そんな彼らが中心になってとってきた獲物や木の実を僕が風魔法と火魔法で加工して保存食にしてある。そしてその保管場所としても坩堝の森の中の洞窟で天然の冷蔵庫になりそうな洞窟を見つけた。
結果として、すでに二年位はラクーン808の食糧事情を支えられる位の食糧が備蓄してある。
なんというか、やりすぎたかもしれない。
だがそのお陰で僕とキンヒメはまったりと二人で柔らかいお日さまを堪能できているのである。
素直に喜ぼう。
そうやって幸せを噛み締めながらへそ天している僕の腹の上で、キンヒメの顔がもそもそと動いた。
「ねえ、リント。ドナルド様とディーナさん、お二方の仲睦まじい姿、素敵でしたねえ」
「うん、そうだねえ」
この間、キンヒメを紹介しに鳳の巣である
どうしてそうなったかは僕には最後までわからなかったが、どうやらキンヒメにはわかっているらしく、さらに言えば大満足そうな顔をしているから僕としてはオールオッケーです。
何よりも親友の幸せそうな顔が見れたのが一番大きいかな。
ドナルドとディーナはあの時にツガイとなった。
あの幸せそうな照れ臭そうなドナルドの顔を僕は一生覚えているだろう。
僕の幸せな顔も、ドナルドが覚えていてくれるだろう。
しかし、それにしてもだ。
「キンヒメが恋バナ好きだなんて、僕は知らなかったよう」
そしてあんな暴走モードのキンヒメも知らなかったよう?
「うふふ、内緒にしてたんですよ。これはラクーン
オス嫌い? そんな気配なかったんだけどなあ。
「え? そうなの? そんなイメージなかったなあ。僕には会った時から優しかったし、こっちにお嫁に来てからも、いつでも誰にも優しい狸だと思ってた」
僕はヘソ天の状態のまま首をもたげてキンヒメの顔を見る。
キンヒメも僕を見ていたらしく目があった。
「それはリントがいるからですよ。幻滅しました?」
少しバツが悪そうにキンヒメは僕のお腹に顔を隠した。
幻滅?
「いやいや、幻滅なんてするもんかあ。むしろキンヒメの知らない一面を知れて、僕は嬉しいんだよなあ」
あんなに感情的なキンヒメを見るのは初めてだったからね。嬉しかったよう。
「ふふ。そう言ってもらえると嬉しいです! でもみんなに優しいってのはリントの勘違いです! 私が優しくするのはリントだけですからね!」
そう言ってから、照れたように、僕の腹の上でもそもそと鼻先を動かし、ヘソの穴にその鼻を差し込んでくる。
「ちょ! キンヒメえ! なんでえ? くすぐったいからやめてええ」
おへそはくすぐったい。
「ふふ、恥ずかしい事を言わされた仕返しですよ」
今度は柔らかな僕のお腹を甘噛みしてくる。
「ふへ、ふへへへへえ。キンヒメ、優しくないいよお」
でも幸せえ。
これはまさに幸せのカタチだろう。
しかし。
そんな幸せを具現化したような状況は長くは保たず。
すぐにたった一言で破壊された。
そこに響いた声と言葉は実に剣呑な言葉だった。
◇
「ラクーン
え?
なんで?
僕とキンヒメは即座に跳ね起きた。
「なんでえ?」
僕の間抜けな狸顔。
「すみません、リント……もしかしたら、原因は私かもしれません」
もしかしたら、と言いながら確信に近い表情で謝るキンヒメ。
「そうなの? でも詳しい話を聞きたいところだけど、とりあえず、キンヒメにやましい所はないんでしょう?」
「そうですね……降りかかる火の粉と言いますか……迷惑な虫と言いますか……」
「ああ、なんとなくわかった気がするよう。とりあえず今は早いとこおやじと合流しよう」
「そうですね。きっとお父様も困ってますわ」
僕とキンヒメは、一つうなずき合って駆け出した。
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